書架の魔女の現代入り 〜urban legend Witch
□五話『思いの行方』
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BGM 〜暁雲〜
「……からかうのは止めてくれる?」
「からかってなんかない!俺は本当にーー」
「私からすればその思いがからかってるのと同じなのよ!」
こちらの言葉を制すように声を荒げ、そして拒絶するような眼差しでこちらを見据える魔女。
「貴方のその感情は人間からすればとても貴いものなんでしょうけど、私からすれば唾棄すべきものなのよ。確かに魔法使いにも寿命の概念はあるわ。不老不死って訳じゃないもの。だからこそ、一部の人間は魔道に身を置いてでも叶えたい願いがあって、違う時間の流れを生きる決断をするの。
外見は同年代に見えても、私と貴方とでは倍……いいえ、十数倍は生きている年月が違うのよ。貴方たち人間の一生は、私たち種族魔法使いの一生のうちのほんの数秒にも満たないほど短いんだから……。貴方に解る?先立たれる悲しみが、回りの全てが自分より先に老いていく苦しみが……」
「それは……」
解るはずがない。体験したことがないから。同じような状況に身を置けないから。
こちらが答えられずに沈黙していると、小さな溜め息のあとに魔女は言葉を続けた。
「解らないでしょう?別にいいのよ、優希は只の人間だもの。もっと普通に暮らして、人並みの幸せを手にした方がいいに決まってるわ。……さっきのは聞かなかったことにするから、その感情はいつか出会う別の誰かに取って置きなさい」
そう言って歩きだそうとした彼女の手を引き無意識のうちに抱き寄せていた。
「……なんのつもりなの?」
正面から抱きあう形になっていて、彼女の顔は俺の胸元に埋まっていてどんな表情かは確認できない。
「確かにパチュリーみたいに自分以外が去っていく状況なんて解らないけどさ、君の気持ちを想像するくらいは出来るよ」
「……話してみて」
「ありきたりな感覚だと……寂しいだろうけど、それに加えて恐怖もあったのかなって。自分一人になる怖さと友人と思える人たちと別れなくちゃいけない寂しさと……。それを考えたら、確かに俺がしたことは、また君を悲しませる事に繋がるんだろうな」
「……最後のところはよく解ってるじゃない」
「だけどさ、前に幻想郷の……紅魔館の話をしてくれた時、そこの人たちの話をしてる時はとても楽しそうだったから。人と関わりを持つこと自体は嫌いって訳じゃない……のかな。所謂妖怪で長命だから……残される事はないから」
「……よく見てるわね」
「だからって訳じゃないけど、俺は自分のこの感情は他の誰でもない君に……パチュリーに渡したいんだ。只の人間だけど、それでも君に惹かれて一緒に居たいって思う。寿命の差はどうにもならないかもしれないけど、同じ時間を生きてる間は悲しい想いをさせるつもりはないよ。出来る限り傍に居させて欲しいんだ」
「……そんな優しい言葉ばかり並べるな……ばかぁ」
顔は見えないがおそらく泣きながら、力なくこちらの胸を叩く少女。
その姿も愛おしくてそっと抱いている腕に力を込める。
「……むきゅぅ……」
「急かすような事じゃないんだけど、返事は……」
「……その、返事は出来ないわ……。そこまで想っててくれて嬉しいんだけど、そもそも、貴方が幻想郷に来れないんじゃ……ね?」
「ははっ……そりゃそうか」
多分、今俺と彼女は両想いって奴なんだろうけど叶わぬ恋……になってしまった。
「幻想郷への行き方って……」
「神隠しか、結界を越えるか……ぐらいね」
「それじゃ、ほぼ無理ってことか」
あっけらかんと笑って見せる。
それに関しては手の出しようがない、超自然現象みたいなものだから。
気がつくと視界がぼやけ出していたから、その顔を見られないように袖で拭い、思ったままの事を口に出す。
「諦める訳じゃないけど、もしもパチュリーが戻ったらもう会えないのか……」
それだけは悔しい。後にも先にもここまで好きになれるのは彼女だけだろう。
「もしも……、もしもよ?優希が幻想郷に行く方法があるなら……どうしたい?」
「!そりゃもちろんーー」
俺の腕から離れ、少し息を整えてから、彼女は異世界への案内人のように説明をする。
「二度と此方に戻ってこれず、人の知識の結晶である様々な道具や便利な生活とは切り離されるとしても、貴方は彼方に行きたいのかしら?」
「……」
一瞬言葉に詰まる。
その姿を見てか、少し柔らかく……子供を諭すかのような口振りで魔法使いは言葉を紡ぐ。
「即答できないのは仕方ないわよ、今までの暮らしを捨てるってことですもの。……それでも来る勇気がある?」
うっすらと差す月明かりが魔法使いの姿を夜の中にはっきりと浮かび上がらせる。その光景は彼女の存在がこの世界から切り離されているように見えた。
まるでこの質問が最後のチャンスかと言わんばかりに。
「……急激に環境が変わる場所に行く勇気はないけどさ、それで君の隣に居れるなら……俺は全部捨てても構わない……かな」
「本当に……貴方って……」
聞こえるくらいの溜め息をつき、彼女はまたこちらの手を繋ぐ。
「出来るかどうかは解らないけど、優希が幻想郷に来れるように出来るだけ手をうつわ。……だから早く行きましょ」
こちらの手を引き、あと少しの道のりを急かすパチュリー。
手を引かれながら、なんとなくさっきまでと比べて距離が縮まったような……そんな気がした。
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