ほか、いろいろ。

□まさかのGTO
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小説や映画や漫画によくある、『好きな人の寝顔にそっとキス』というシチュエーションはオレには敷居が高い。好きな相手が族上がりの教師で男(二十二歳)、バリバリの女好きで素人に弱いヘテロ、馬鹿、お人好し、がめつい、アホ、童貞…と問題が山積みだからだ。社会からすればどこが敷居が高いんだって奴だけど、八才年下の同性がこっそりキスするには敷居どころかチョモランマ一時間で制覇しろ級の難題だ。

そもそも同じクラスの女子を好きになったとしてだ、寝てるシチュエーションに遭遇するなんて授業中かカノジョにした後か。放課後一人で机に突っ伏してる相手に出会うには何日見張ればいいんだ?保健室で眠る相手に誰にも気づかれず近寄るには監視カメラを配備しなきゃいけないだろ。

フィクションの中で結果的に幸せを手にする主人公達に嫉妬を覚えるなんてオレはどうかしている。本当になんで好きなんだろう。

相手はあの鬼塚。好きとか甘酸っぱいことを言ってるけど、自分の想いに気づいた時は情けなくて死にそうだった。
グラビアの適当なページで自慰行為に励んでたら、ふっと鬼塚のニカっと無防備に笑ってる顔がよぎって、そのまま心地良くイッてしまったのだ。萎えなかった。というか改めて鬼塚を想像していじくったら十四年の人生の中で一番気持ちよかった。

…好きっていうか性欲、性欲だ。オレは鬼塚のことを体目的で好きなんだ。たぶん。

あと、オレはたぶんゲイでもない。たぶん鬼塚限定のバイだ。たぶん、鬼塚以外の男で自慰をすることは一生ない。…たぶん、だけど。

「キスしてぇな…」

オレは自宅用のパソコンを開く。パスワードを三回も入れて、オレだけの鬼塚を画面いっぱいに広げる。
「黙ってりゃいい顔してんのに」
もったいない。オレは特にお気に入りの、屋上で眠った『フリ』をしている鬼塚の顔を拡大した。ほぼ原寸大の唇にそっと触れると、相変わらずクリーナーの味しかしなかった。

本物はきっと煙草の味がする。枕の下から取り出した鬼塚御用達の銘柄の吹口をかじってから、俺は丸まって眠りについた。朝のHRまで少し我慢する日常は、似合わないけれど甘酸っぱくてしょうがなくって、たまらなかった。

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