アイシー小話その1

□大和猛における愛情表現/被害状況
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大和猛が部屋に戻ったのはそれから一時間後だった。親友のメールに首を傾げながらも、トレーニングを中断するには半端なタイミングだったので、メニューを制覇してからジムのシャワーをやめにして鷹とツインの部屋にカードキーを押し込む。すると、まだ二十二時前だというのに、オレンジの関節照明が大和を迎える。寝てしまったのかと耳をすますと、なんと二人分の絡み合う息が聞こえるではないか。一方は吐息だけ。これは恐らく親友だ。もう一人は…、大和は大股に、しかし音は立てず入り口からは死角となるベッドへと歩み寄る。

ベッドの上は桃源郷だった。快楽に乱れる可哀想な肢体が、他人の熱に冷たい鷹にいじられ遊ばれている。自分の獲物が親友の指先に震えて泣いているのは絶景だった。猛禽類に首筋を啄まれてお人形が泣いている。

「やぁ、…これは楽しそうだ。混ざっていいかな?」
「遅い。俺はもういいや。喋りすぎたし…顎も痛い。もう見てるだけでいいよ」
鷹はぐずぐずと朱色に染まるまで愛撫を施した円子の上からアッサリと退いた。それを引き止めたのは、悪戯されほうだいだった円子本人。
「いや…『アレ』は…やだ…」
しっとりした肌にいくつか欲望を立たせながら円子は鷹に懇願した。あくまでもお膳立ての愛撫しかしなかった男が味方に思えたのだろう。しかし、鷹は西洋人形につれなかった。
「なら認めるしかないね。大和に好き勝手されたくない理由を、自ら」
最後に、鷹は円子の右胸に吸い付いてやった。耐え難い、と円子が仰け反ってすぐ丸く痺れに耐えるのを、大和は唾をのみこんで凝視した。
「俺はシャワー浴びてくるよ。大会中だから…人差し指がいいとこ、かな」

…ヴァージンだしね。

大和はすれ違い様に鷹が吐いたセリフを胸に、トレーニングの汗を張り付かせたままベッドの上へと乗り上げた。情事の施しに濡れた円子は受精を待つ雌のように性的な塊。大和は逆に種を植えたい雄の塊だった。
開いた太ももの内側に手のひらを入れると、撫でるだけでも喘ぎ声が薄い唇から零れる。
「ヴァージン、だって?誰ともしてない?本当かなぁ」
鷹に散々吸われた白い内股は痛々しくも華やかな痕で飾られていた。
「奥も濡れてるね。鷹はどんな風にした?」
「ひっ…さわらない、れ…もう…やだ」
大和が片手で尻を割り、狭間の口を探るのを円子は耐えられないと頭をふった。
「大丈夫。一本だけだから、ほら…はは、すぐ入ったね!鷹は上手だったろ。大人しげだけど、なかなかどうして、エグい男だ」
拒む入り口を攻略すれば、柔らかな肉がすぐ大和の指を奥へと誘い込む。ベッドサイドには、零れたヌメリが光る、斜めに封を切られた小袋。なるほど、平良からの横流し品が活躍したらしい。あの先輩はローションと避妊具をいつでも携帯しているという強者である。
大和の人差し指に震えた可愛げに、たまらず長い睫毛に止まっていた涙を舐めてやると、円子は舌から逃れようとして身をよじり、自ら指を深く受け入れてしまった。
「ひぅ…っ!」
「……中指もいけそうだね」
「あ、いやだ…やだ、やめ…て…」
真っ赤な肌に被さる大和の熱から必死に逃げようとするのを、指の角度と首筋に押し付けた唇でベッドに張りつける。
「つれないなぁ。鷹にはさせたんだろう?俺がそんなに嫌い?本当に嫌い?聞きたくない?見たくない?触られたくない?…嫌いな男の上げ膳据え膳にされた挙げ句、このままで帰りたい?」

オリーブを垂らしたような目尻は今にも溶けそうだった。見込んだ通りなぶりがいのある獲物に大和は薄ら寒いと評判の笑みを与える。まばたきを忘れ息を止めた唇に肉厚な舌をねじ入れる際には顎を押さえるのも忘れずに。一時間も血圧の低い鷹にいいように遊ばれたせいで、円子はロクな抵抗もできなかった。

「俺に好き勝手されたくない理由ってなんだい…?」

唾液を唇から首筋、胸、腹までこすりつけながら大和は円子の弾力を楽しむ。臍のまわりを啄んでやれば内側が正直に踊る。これに誰も、手をつけずにいられたということが驚きだ。鷹に先を越されたのは非常に残念だが、鷹だったから花の蕾も警戒しなかったのだろう。大和は綻ぶ花弁の色は肉の赤か瞳の青か、楽しみだなとさらに追い詰めるために、中指を円子にも意識できるよう入り口近くに強く押し付けた。
「あっ!」
「ほら、早く言わないと。二本はツラいよ。痛いうちはまだいい、気持ちよくなる方が…ね、」
力を弱めて、広がった縁を確かめるようにさすると円子は今度こそ堪えきれずに涙を流した。
「君は、峨王氏が欲しいんだと思ってた」
峨王の名に、濡れた鉱物が反射した。本来は冷たいはずの色に見据えられて大和の背筋を暗い快楽が登ってくる。
「もしくは峨王氏が欲しがってるんだとね。でも君たちはちぐはぐだなぁ。あんな近くにいるくせに、全く遠い。そうか!自分じゃどんな後ろ姿をしているか、わからないんだね」

…かわいそうに。抱きも抱かれもしないのなら、俺のモノも同然だ!

大和はもう一度キスをしてやろうと伸び上がって……その顎めがけて振りぬかれた円子の腕を寸でのところで避けた。
「っ、」
ちょっと驚いた隙に退いた腹を蹴飛ばされ避けた筈の腕が平手で帰ってきて耳を打たれる。パァンと気持ちのよい炸裂に似た音の向こうにピントを合わせると、すごく物騒な光景があった。


ベッドサイドの電気スタンドをつかみ取った白い腕、力任せに引き抜かれたコードが遠心力につられ宙をくねる様、


大和猛十六歳。アメリカ滞在歴二年。リンチや物騒な場面に出くわしたことはそれなりに。

だが、思いっきり殺意を持って凶器を振りかぶられた経験だけは残念ながらなかった。
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