ほか、いろいろ。

□友達について
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枸雅匡平というのは良く言えば温厚、悪く言えばヘタレの、平凡を絵に描いたような男だった。

そんな男は世の中に五万といたし、そんな男に母性本能をくすぐられて結婚してしまう女も五万といるのだから、枸雅匡平に女ができたという噂は相手が相手でなければ七日もしない内に消えていただろう。
相手が史場日々乃でなければ、だ。

「藤間ぁ、枸雅と史場が付き合ってるってマジか?」

春先の親睦会で史場日々乃に男ができたという噂はあっという間に社会学部だけでなくN大全体に広まった。
一年間、どんな男のアプローチにも困った顔でやんわり断りを入れていた高嶺の花が、記憶に残りにくい平凡な男と一緒に行動しているのを認めきれない、理想の史場を諦めきれないヤツはこうして俺のところまで確認しにくる始末だ。
そういうことは本人に確かめろよ、とウンザリしている俺自身、枸雅が史場と急接近したと見て真っ先に本人達をつついたのだが、実にアッサリと否定されていた。

そんな関係じゃないわと眉を下げたのが史場で、史場の発言に俯いた後、変な噂流すなよとちっとも痛くない釘を刺してきたのが枸雅だった。妹付きとはいえ、ひとつ屋根の下で史場と生活することになったと衝撃の事実を投下しておいて、枸雅は告白の方は未遂のまま放置する気でいると言った。

「ちげーよ、オトモダチ。枸雅にんな度胸ねーよ」

俺は枸雅とけっこう仲がいいと、俺がそう思っていたからこそ、男共の嫉妬から少しは守ってやっている。俺が女ならこの感情を母性本能と受け取っただろうに、残念ながら俺は歴とした男だったので甘酸っぱい三角関係は発生していない。

「……だよな…枸雅だもんな…」

俺に詰め寄ってくる男の八割はこの反応をとる。枸雅だから、という謎の説得力。八割がまるっと社会学部の人間だから当たり前のことだ、全員が枸雅匡平を良く言えば温厚、悪く言えばヘタレの、平凡を絵に描いたような男だと認識しているのだ。
後に残った二割には、いかに枸雅が良く言えば温厚、悪く言えばヘタレの、平凡を絵に描いたような男であるかを力説して、できれば穏便にお引取りをと願う。
まったく、枸雅の恋路に骨を折る俺には、これが父性本能なのかと頭を抱えた夜すらあった。

史場の方はモテる割りには同性にも味方が多く心配する必要はなかった。あっちの取り巻きは枸雅が御しやすいとみて、二人の動向を見守る会に落ち着いている。育つかどうかもわからない話の種に、勝手に花を咲かせているのだ。

育たなければ、俺はきっと朝まで枸雅に付き合って慰めてやるだろう。育ったならば、朝まで俺に付き合えと枸雅に慰めさせただろう。

高嶺の花を想う以前に、俺は枸雅のことを大事に思っていた。

もしも枸雅が、温厚でもなくヘタレでもなく、平凡でなくなっても、できれば友達のままでいたいものだという感情が、友情や父性愛でなくて一体なんだというのだろう。
 
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