ほか、いろいろ。

□ミルクチョコレートと雪見大福
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俺の趣味はわかりやすい。肉感的な唇や憂いの似合う顔が好きで、後輩にまたですかぁと呆れられるくらいにわかりやすい。

俺の視線はわかりやすい。好きなものはじっと見る、好きなだけ見てしまって対象に笑われてしまうくらいにわかりやすい

わかりやすいのだけど、俺が恋の相手を食っちまいてぇことには誰も気づいてはくれない。毎日毎日頭ん中で溶けるまでミルクチョコレートと雪見大福をねぶっている俺の本気に誰も気づいてはくれない。気づいてはくれないので、俺は現実にミルクチョコレートと雪見大福を味見させてもらえないだろうかと、妄想で腹一杯になりつつ奮闘していた。

難易度。雪見大福の難易度はべらぼうに高い。海千山千、相手は俺を指で弾いては楽しむ技量を持つ。あしらわれ落ち込む姿を晒せばかわいこぶってと一蹴される。雪見大福はひと舐めどころか息で粉を吹き飛ばせる所までなかなか近づけない。

ミルクチョコレートは雪見大福に玉砕し肩を落として業務に励む俺に飴玉を分けてくれた。ミルクチョコレートは可愛くない俺が可愛いらしい。大分歳の離れた部下だから。仕事に熱心だから。見えぬ面構えと姿勢に反して俺は真面目で従順でミルクチョコレートのお気に入りだった。雪見大福よりかは可能性大なはず!俺は飴玉をありがたくその場で頂き、包み紙は伸ばしてオカズにするため懐にしまった。後輩のドン引き顔が横切ったが脳内でシャッターを下ろして無視した。
…言わなきゃバレねーんだよ。

難易度。ミルクチョコレートの難易度は…不明である。海千山千、とまではいかないが意図を持っての拒否や回避を受ける身としては高いと言いたい。言いたいがミルクチョコレートは俺には甘いため希望は捨てていない。味見はもとからン十年計画のつもりだったから俺には時間だけはある。死ぬ予定は入れてないから、引いて引いて引いて引いて下がって歩いてちょっと押しつつかわいこぶって食わせてもらおう。年下でよかった。俺は飴玉の包み紙をラミネート加工したお手製しおりを口に加えながら日記に「明日から現世に出張なので憂鬱だ」と記した。意味は「雪見大福にもミルクチョコレートにも会えず自由にマスもかけねぇ、憂鬱だ」。後輩のドン引き顔が横切った。
…見られなきゃバレねーんだよ!

ある日、ミルクチョコレートの天敵とバッタリ会った。見た目的には天敵に近い俺は道をあけて挨拶。しかし天敵は進まなかった。珍しく考える素振り、俺をじとっと貫く目。ちびっこ副官がいないと怖さ万倍、天敵よはやく行ってくれ!あ、動いた動いたよかったよかった。
「てめぇの色は鬱陶しい」
…ほぼモノクロの俺には不条理な言葉だった。

色…色、色。俺はミルクチョコレートに訪ねることにした。俺、なんか出してますかと。溢れちゃってますかと。
「幸せそうではあるね」
恋しい相手と過ごす毎日だから当たり前だ。
「そうだな…春のような陽気を、肌に感じてしまうくらいには」
ミルクチョコレートは盲目ゆえに「見える」ではなく「感じる」と言う。違うとわかっていても俺は胸をときめかせる。肌に感じてしまうだなんて、そんな、セックスしましょーよと誘うみたいです、とは言えない。
「ああ、今が満開って感じになってるよ、檜佐木」
セックスなんて言ったら、のそりと手土産を持ってあらわれたミルクチョコレートの親友に潰されるだろうから。

俺がミルクチョコレートにあの手この手なのは周知の事実、まだ雪見大福を諦めてないのも同様。雪見大福がミルクチョコレートの前で俺を飲みに誘った。いっておいでとミルクチョコレートに見送られる。両手に花といかないのが残念だ。本気にされてないのはもっと残念だ。
「あんたはねー残念なのよ。残念。何が残念かって残念なことが残念なのよね」
ね、じゃありません。雪見大福の説明になっていない説明が俺の心に突き刺さった。
俺はその日の夜、雪見大福が喉に詰まる夢を見て「プレイは個人の自由ですけど俺の趣味じゃないっス!」と叫びながら飛び起きることになった。
さすが俺。妄想が願望の上をいくとは。

後輩から菓子を貰った。立場が逆じゃねえのと綺麗な箱をあけると、ひとつひとつ丁寧な装飾を施されたチョコレートがすました顔で光っていた。へぇ、高そう。率直な感想に後輩は笑うが、青白いせいで皮肉めいた顔になっている。こいつも残念な方向へ進んできている気がする。もったいない、感じがする。

さらに後輩からたい焼きを貰った。
「買いすぎちまって。焼きたてっすよ!」
チョコレートと重ねて持つわけにもいかず、俺の両手は菓子で塞がった。揃いも揃って袋も用意してないのかよ。
「じゃ、俺これから隊長んとこなんでー」
…お前も残念な方向へきやがれ。

「あらぁ大漁じゃない」
団子屋の前で雪見大福に声をかけられる。サボリですかと尋ねればみたらしの串をつっ込まれた。はぶはいひゃなひれしゅか。もとい危ないじゃないですか!俺は口まわりをタレでベタベタにしながらも団子を一つ飲み込むことに成功した。串を歯で押さえながら危ないじゃないですかと言ったら、今度はあぐないあないへすか、になった。
「ごめんごめん。副官が団子の串で死んだなんて笑い話にもならなかったわね」
持っててあげるから、食べちゃいなさいよ。腰掛けている雪見大福の手は俺の胸の高さで止まったきり。俺は菓子を持ち直して腰を曲げ、串の持ち手を雪見大福に差し出した。団子屋の店先でされるがままになっている俺の横を知り合いが何人か訳知り顔で通っていく。そうでない者は真っ昼間からと呆れたりはやしたり。俺は黙々と食った。雪見大福は食べやすいように残り二個は串を横に寝かせてくれた。
…俺はあんたを食いたいんだけどなぁ。
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