06/13の日記

21:44
推敲の行方0.7(雲水攻)
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ポメラに残ってたデータ。登場人物が変更になってたり。ヘマの多い3400字ちょい解説(笑)付き!

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★付箋文★

五月三十一日、十二月二十五日、二月十四日。

何の記念日かというと、金剛家の双子が気持ちやら物やら何やらをいただいてしまう日であった。

特に、誕生日を迎える五月は普段接点のないお方からの好意も多く、兄の方は同性から、弟の方は異性から入れ替わり立ち代りおめでとうと祝われる。

好意の一角にひっそりと毒が紛れていたりもするが、贈った方が蛇なら貰う方も蛇だった。弟は蝮、兄は朽縄。
贈り主のその後は察していただきたい。


ここからは、そんな双子の兄、金剛雲水の話になる。



双子が初々しくも神龍寺学院の一年生だった頃、三年生に「千代さん」というあだ名の先輩がいた。


外見は黒髪黒目の中肉中背のどこにでもいそうで、どことなく上品な男の子だったが、彼はまさに「千代さん」だった。

筆箱の内側にまで梅花の千代紙を貼れば、鉛筆にも枝振りからして見事な梅を彫るような、もとから器用なお方で机の上に並ぶノートはすべて和綴じの自作、教科のイメージごとにばれた美しい文様の千代紙は、勿論教科書カバーともお揃いになっている。


「千代さん」の「ちよ」は、「千代紙」の千代。


千代さんが入学して以来、茶道部では干菓子を包むことから発展して、「たとう」にはじまり小物作りも熱心な「手芸部」を兼ねるほどだ。

三年生はもちろん普段接触がない二年生でも、文化祭さえ経験していれば「千代さん」で通じる。
すれ違った程度の彼らが言う「ああ、千代さんね」の後に続く感想は、大きくわけて三つ。

器用な人、少女趣味な人、ある意味、派手な人。

★付箋文★

多くの一年生が千代さんに馴染みのない中、雲水の彼への第一印象は、誰に教えられるでもなく正しく「千代さん」だった。

なぜかといえば、十六歳の誕生日に初対面で渡された物が千代紙に包まれていたのだ。


部外の最上級生は大胆にも雲水の一人きりを狙って、軽い挨拶と名乗った以外では三言ほどであっさり立ち去っていった。

「団扇と迷ったんだけどね、けっきょく扇子にしたよ。まぁ自前があるだろうから、気が向いた時にでも、ね」

就寝前、使い終わった歯ブラシを片手に散歩をしていたところに「偶然」現れた彼からは、うっすらと、梅花の香りがした。

暗がりの出会いに馴染みのあった雲水は「偶然」に驚きはしなかったが、部屋に帰ってから別の意味で驚くことにはなった。

二色しか使われていないというのに、重なりあう葉が随分と優美な、咲いたような柳は優しく桐箱を包んでおり、破らぬようにと慎重に紙を開ければ、蓋をとった内側も当然といった風に千代紙で飾られていた。

凝ってるな、と感嘆しかけて、雲水は息を呑む。

蒸し暑くなってくる中、雲水も懐に場所をとらない扇子はすでに所持していたが、親骨に柳が彫られた「満月」の夏扇は洒落というには意味に次いで時代も合わない代物に見えたのだ。

桐箱の中だけには収まりきらない風格に、雲水は数分前に「偶然」あったばかりの上級生の名前を思いだそうとしたのだが、黒髪黒目に中肉中背、上品で千代紙愛好家、という簡単な印象しか繰り返すことができず、翌日の朝に食堂で部の先輩を捕まえてかくかくしかじか、「ああ、千代さんね」と教えてもらい「俺も本名は知らねぇな」と言われて、「ああ、だから千代さん」と。

初めて口に出したあだ名に、雲水も簡単に染まった。


しばらくして廊下で偶然すれちがった千代さんに、蒸す夜が続いて重宝していますと礼を言えば、

「白檀の扇も候補に上がってたんだけど似合いすぎるのもねぇ」

……朗らかに告げられ、ああ、派手な人だなぁ、と雲水は扇子の出所を聞くことなく微笑み、千代さんも教科書を抱えなおし自然と笑っただけでお互いに背中を向けると、次に挨拶以外で会話したのはなんと師走も半ば、世間では恋人達が人目もはばからずに絡み合う聖夜のことであった。

★付箋文★


「メリークリスマス雲水くん。はい、お箸」

クリスマスボウルで負けを味わってきた雲水がだんまりしながら(一年生のくせに)談話室のコタツで足を伸ばしていると、斜め後ろから色とりどりの千鳥が薄桃色の千代紙の空を飛んできた。

「こんばんは、千代さん。オハシって、この箸ですか」

右隣に腰をおした千代さんに、雲水はコタツの上に転がっていたボールペンで落語家の蕎麦をすする動きを真似てみたが、初夏に貰い受けた長寿であろう扇子への意趣返しとまではいかなかった。
なんせ千代さんは雲水の素人芸に面食らうことなく、本物の箸でもう一度、とねだってきたのだ。

「扇子は外じゃ使ってくれなかったもんね。これもマイ箸にはしてくれなさそうだし、いまちょっとだけ、ね、お願い」

墓穴である。

雲水がゆっくりと千代さんから目をそらす。と、どうしても視界の正面に入ってくるのがコタツの上で羽を休めている、包む箱の面積にともない小指の先よりも小さくなった可愛らしい千鳥達だ。

千鳥が発てば、やはり桐箱が現れ、蓋を開ければ春ような薄桃色とは一変、霜が静かに降りている中に、たしかに、箸が寝ていた。

起こすなと言わんばかりの箸が、である。

果たしてこれは、赤が先なのか黒が先なのか。それともどちらでもないのか、見れば見るほどわけがわからない。
高価さだけは手に取るまでもなく感じ取れる箸を突きつけられて、雲水は偽りまくった笑顔を千代さんに向けた。

「ありがとうございます。蕎麦風にでかまいませんか?」

「うん、蕎麦風でいいよ。若狭塗だからいっぱい食べたほうがいい味でるよ。同じ倉から発掘した津軽と迷ったんだけどね……ほら、ここ。この宇宙っぽさが決め手だったよ」

どうやら、一人きりの時にしか実用生を見いだせないあの扇子も倉からやってきたらしい。

「そうですね、ここなんか、ブラックホールみたいですしね」

「あ、ほんとだ。これは夏の帰省で見つけたんだけどね、今朝も夏とは違って見えたし、不思議というより怖いね。こういうの廃れて欲しくないよねぇ」

「……ですね」

実家にあるトンボ玉の箸がすさまじく恋しい。最終的に三文字まで口数の減った雲水に千代さんは満足げに頷くと、二回目のメリークリスマスを唱えてコタツから一抜けした。

★付箋文★

それから年が明けると、三年生の千代さんは受験でも就職でもない何かに忙しそうで、雲水と千代さんの公然の必然は乙女達の決戦の日まで見送られ続けた。



「お疲れ雲水くん。うちの後輩達の接待はどうだったかな、茶室で休憩した気分は、どうだった?」

最早、喧嘩上等の第一声である。

会話らしい会話を振られるのはまだ三度目であった、が、三年生のほとんどが自由登校で気ままに引きこもるか都会に出たり…千代さんのように地元に戻っている事を考えれば、セクシャルハラスメントも一気にセンチメントなアッパーだ。

「こんにちは千代さん。そうですね、なかなか貴重な体験をさせてもらいましたよ。ひょっとして、アレが今日の贈り物、でしたか」

茶道部のテリトリーから、気の早い、栗の花の匂いをまとわりつかせて出てきた雲水を千代さんは待っていた。
背もたれに蔦のはうベンチに腰掛けながら、源氏物語の一場面が描かれた千代紙を使って題名の隠された文庫本を片手に、梅の木の下で待ち伏せていた。

「まさか。さすがに人を囲ったりはしてないよ」

「でしょうね」

ベンチから静かに立ち上がった千代さんは、印象に惑わされがちだが以外と背の高い人だ。
雲水よりも小指一つぶん、彼は先を生きている。

「クリスマスの仕返しにしては雑だね。僕からの最後の贈り物は、こっちだよ」

この機会を逃せば、人に揉まれあう卒業式が最後になる。言われなくとも双方わかりあっていた。


雲水に手渡された最後の箱は、血にざらついた千代紙のなれの果てに包まれていた。


「……いつ開けると、千代さんに都合がいいですかね」

雲水はいまだに千代さんの本名を知らないままでいるし、千代さんは雲水に肝心なことを言わないままでいる。

「一番いいのは卒業式の翌日だね。そう、それがいい。腐るものじゃないしね」

お互い、薄っぺらい笑顔を保ったまま。

「大事にしますよ」

雲水のつまらない台詞に、千代さんは素直に頷いてくれた。

「じゃあ、卒業式で」

「はい、卒業式で」


三月。千代さんは家庭の事情で卒業式を欠席した。




お前、千代さんって知ってるか?

「ああ、千代さんね」

知ってるのか!

「知ってる知ってる。つーかお前こそ知ってるだろ、千代さんってお前に貢いでたセンパイだろ」

なんだその話。

「……お前、いつかマジで刺されるんじゃね?」

よけいなお世話だ。


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この(0.7)では扇子の絵柄が「満月」です。(0)では新月、(1)では「眉月」で、いつのまにか三日月になってます。
書いていくうちに気分変わりすぎだろというツッコミの前にプロットをチラ見してごらん……最初の絵柄はなんと金魚だった。


バレンタイン決戦(笑)は「セクシャルハラスメントも一気にセンチメントなアッパーだ」というわけで、書きながらほぼ寝ていました。

考えるのと同じスピードで文字打つと、こういう大怪我をします。(0)から少しカタカナを減らした作業を無に返すアホの所業。

ヘマしたのは千代さんの身長に関する部分で、中背設定から一気に178センチくらいのイメージに脳内変換し終わってた。これも眠かったからだと思います。
ここで「雲水よりも小指一つぶん、彼は先を生きている。」と小指を出したせいか、箱の中に小指入れちまおうバージョンも考えました。

保存用の仮タイトルが「薩摩切子の破片」で、薩摩切子の登場が大前提のはずがもう切子とか関係なくなってきて、ホラーにしかけた名残が管理人には見えるあたりです。

(1)では一休と会話し出す最後のチョン切れ部分、(0.7)ではゴクウが相手でした。なんだ、ただのハーレムか。


卒業式前の盛りかエピローグの完成か、とにかく、もうちょっとどうにかしてきます…

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