08/12の日記

23:48
十文字詐欺受前半(大和・鷹)
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かけこみエアー夏コミその2.

かなり前にネタ帳にのせたのと同じ部分なので、目新しさはあまりないです。

R12?くらいのぬるーい大和×十文字、未遂アリ。


・十文字が怪我でアメフトの選手を続けられなくなるという設定です。

・やっぱり番←十です。段箱の主が好きなのでしょうがないと思います!



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【Home, Sweet Home】




ぎし、ぎし、ぎし。

けんこう骨がゆるく沈んだり浮いたりを繰り返す。

おや、自分はいつ水面へとたどり着いたのか。

十文字一輝が夢心地のままに瞼を持ち上げてみれば、見慣れない天井をバックに鋼のくせっ毛とさらさらのストレートがうねるは、絡み合うわの接戦だった。


すぐさま目をつむり直した十文字の脳裏にオマケで焼き付いた天井は、よくよく思い出してみれば今日だったか昨日にたどり着いたばかりの本庄鷹の実家の、彼の自室のソレであった。

十文字はようやっと己の現在地に合点がいって、それから、まろやかな酒気が漂う現状にそうっとため息を零した。
ぎしり、と彼らの戯れがキングサイズのマットレスからイヤでも伝る。本番が始まらない限りは寝息でも再現してとぼけるに限るか。始まってしまったらその時はその時で、居間のソファでも借りようか。

深い眠りに戻ることが難しいと悟ってから、十文字は本庄鷹と大和猛についてよせばいいのにうつうつと、つらつらと考え始めてしまう。

そういう仲でもおかしくはない距離と雰囲気を持ちつつ、どういう仲なのかハッキリとさせない焦燥と期待を抱かせる、十文字からしてみれば器用で完成された時折不愉快なニコイチ。
不愉快。十文字が鷹にやや懐いており大和が十文字を構いたがるがゆえに発生する感情だが、十文字の熟してもいない胸中など鷹からすれば悋気とも呼べぬたいへん可愛らしいものであった。

構内でも隙あらば追いかける大和と、隙を見ては逃げようとする十文字を眺めているうちにそこそこの情が湧いてきたから、今年の里帰りに付き合わないかと。

三年目の夏合宿のさなか、ポニーテールで肌理の細かいうなじを太陽の下にさらしていた鷹からそう告げられた瞬間の方が、キスシーンよりよっぽど混乱した十文字である。


混乱したまま首を縦に振れば貴重な盆休みは京都へと手を引かれてゆく決まりとなった。


父親の声にならない哀愁はともかく親友達の誘いを断るのはつらかったが、十文字が鷹本人からの誘いだと言えば、黒木には土産とみやげ話よろしく! と笑顔で手を振られ。
戸叶からはいろんな意味で身体を大事にするんだぞ! と深刻に見送られた。

いろんな意味って、と眉をしかめつつも、思い当たる節がまったくないわけでもなく。

東京駅から鷹と二人で新幹線に乗り、前の席が空いているなと思った矢先に品川駅から乗り込んできた大和に、大和が手にすると威圧感すら漂うらしいゆでたまごにも似たようなため息を吐いた気がする。

案の定目ざとい大和はひとつどうだい? と白い歯をキラリとさせながら十文字にゆでたまごを押し付けてきた。

いらねぇよと十文字が素っ気無く返事するのにも関わらず、だ。


そんな男が寝たフリの唇に気づいたとして上品に無視などするわけがなく、十文字は十文字で酒が入ると少しばかり艶種に強くなるくせ、肝心の防御は人任せに開き直ってしまう悪癖も、あった。


ぬるりと隙間を這われる。

十文字は憂鬱な吐息に重なってきた男を拒まずに、アルコールに溶けきったふりをして混ざり合った雄の匂いに易々と組み敷かれてみせた。
鷹の粘膜で炙られていた大和の舌は熱く、濃く、したたかだ。
十文字が喉まで届いた体液をかぶりも振らずに飲み込めば、褒めるようにうなじとシーツの間に大きな手のひらが差し込まれ、再び奥へ奥へと大和のいいように上顎から歯の裏までをねぶられる。

十文字が素面であれば引っかくどころか噛み付いてでも撃退しただろうし、これが一年前だったら、素面でなくとも拳か膝でわき腹をつつき即先輩方に言いつけてやると子供のように口を尖らせただろう。

特に、今年の春に卒業してしまった二つ年上のあの人は。しょうがない学年だと呆れながらも期待通りに行動してくれたに違いない。

いたとしたら、いたとすれば。

酒の席で「十文字係」だった番場衛はすでに「たられば」の住人だった。

十文字が大和に口を吸われているのは京都の一角、高級住宅街の中にある大きなベッドのひとつで、番場が吸っているのはここからずいぶんと遠くにある、石油の出る異国の空気なのだから。

過去というには幾分鮮やかさが過ぎる番場は、もう十文字が酒にかこつけてワガママを言っていい相手ではないのだ。

わき腹を探る大和の左手に指を伸ばして蛇を呼び込む真似をしてしまうくらい、番場のシャツにくるまっていない現実が十文字には切ない。
連鎖するように雨に弱い傷が空調の効いた室内でシクシクと痛み始める。
我ながら女々しいと自己嫌悪するしかなく、十文字は与えられた息継ぎの合間にワザと涙をこぼした。

慰めか目尻にも肉厚な唇を落とされる。

「……大丈夫かい?」

善良ぶった問いには黙って応えて好きなようにとらせた。
抵抗できないトドメはなにも寂しいからでは、広い背中に手が届かないせいだけではない。


ひとつ、精神を痛めるよりも早くに、男達よりも先に十文字の肉体を犯している存在があった。

去年の秋から故障したままの、今年の雨季にはスパイクが履けなくなってしまった左足は、意識したとたんに酷く暗い場所へと十文字を引きずり込む。


「じゃあ、一緒に気持ちよくなろう」

十文字のまいた自棄に蛇は遠慮せず食いついた。
シャツをたくし上げられ、かたい胸の中心を強く吸われる。初めて味わう衝撃に、とっさに引けてしまった腰をもう一人の長い指が宥めにくる。
そのまま側面を下になぞり、十文字にはどうしようもない膝を通り過ぎていったのは鷹のひんやりとした指先だった。


「大和。最後までしちゃ駄目だから」


声はもっともっと低く十文字を撫でた。
なぜだか凍ったのは十文字でなくのし掛かっていた大和の方で、ビタリと動きを止めた大男に十文字が恐る恐る瞼を持ち上げてみれば、眉を八の字にした情けない男前がいた。

上目遣いをしても可愛くない図体のてっぺんに、あるはずもない獣耳が見えた気がして、十文字の脳がのろのろと再起動しにかかる。

「………シタイ」

熱っぽい声は実際湿っており十文字の肌を十分にあわ立たせた。そのまま上半身を伸ばしてきた大和から、ちゅ、と目があったままバードキス。

あ、これ、鳥肌だ。

十文字は酔いという酔いが三半規管を思い切りよく打ってから対岸までサァーっと引いていく様を、真っ青になって受け止めた。

「いじって泣かせるのは構わないけど、とにかく本番はナシ。指も駄目。絶対に駄目だから」

「……据え膳だよ? すっごい据え膳だよ? ちょっと酷くないかい?」

すぐに離れた厚めの唇がさけて鷹に向かって文句を零すのだけれど、目は、間接照明の淡い光の中でも沈みきっている黒は十文字に食らいついたままだった。

あてられた熱量にますます青くなった十文字の下着の中に、するりと、いつのまにかうなじから外されていた大和の右手が忍び込む。
叫んだら最後な気がして十文字は息を詰めた。なぞられる度に恐怖で跳ねる身体は大和の鍛えぬかれた上半身にぶつかってシーツに沈み、また跳ねて、逃げ場がないと知れば自然と丸まった。

待ってと腕を掴まれたり、さぁと肩を抱かれたりするたびに感じていた手の平や指の温度とはまったく違う。

ふざけていない、確固たる、そういう、十文字を性的にどうにかしようと、実際にいま、十文字をどうにかしている大きな手のひら、節くれ立った長い指、ヤスリで丁寧に整えられた爪先…………自ら、自ら蛇の寝床に飛び込んでおいて大変申し訳ないのだが、大和の手によって十文字の身体が良い方向に反応することは、なかった。

……震えながらも口元に手をやった理由が悲鳴を奥歯で止めている最中にツンと胃からせり上がってくる熱を察知したから、という。

だらだらと冷や汗を流す十文字のからだの馬鹿正直さに大和はますます眉を下げ、鷹はというと珍しく声を立てて笑いだした。

先に降参したのは大和の方で、重心移動の軋みは近づくためではなく離れるために三度ほど鳴らされた。

「おやすみ一輝。鷹もね」

大和はキングサイズのベッドに散らばっていた衣類から自分のシャツを拾うと、吐き気に揺さぶられたままの十文字のこめかみを最後にひとなで。
鷹の澄ましきった横顔にキスして、静かに部屋の扉を閉めていった。


「君の態度さ、ホントややこしいから。……これからは気をつけなよ」

隣に倒れこんできた猛禽類の長く艶やかな羽先が嫌味と共に十文字の頬をつめたく掠める。が、まだ大和の熱が残っているシーツの上でとられた手はひどく優しい扱いを受けた。
二人の温度が冷たいまま馴染みあう。

「…………悪かった」

さっきまでとは別の意味で泣きたくなった十文字が謝ってしまうと、鷹は珍しく困ったそぶりをして見せた。

「言ったろ。君に情が湧いたんだって」

困ったままの鷹から手首に落とされた、最初で最後の乾いたキスが十文字を慰める。

不思議と吐き気が遠のいていき、忘れていた眠気が体を一層重たくする。大和には目が覚めてからちゃんと謝ろう。あの男にちゃんと慣れて、名前を呼ばれても冷静でいられる努力をしよう。

先ほど見た大和の下がり眉がちらつくまま目を閉じれば、狭い部屋で肩を落とす父親の姿が、自分を心底心配していますという顔で見送った戸叶が、戸叶の様子に呆れる黒木が、知った顔が様々な表情でほうっとあらわれては消えてゆく。

そのうちピントがぼやけて、うんと遠くのほう、砂嵐の隔てて半年会っていない番場が、やれやれと首を振ったのが見えて。
十文字が夢の奥に手を伸ばした瞬間、世界は鮮やかに加速する。

幻の人をすり抜けて、十文字が振り返った後にはある光景が広がっていた。

寒くて高くて薄い青空はニューヨークの思い出、それまで敵同士だった皆が同じユニフォームを着て上等な芝生を駆けている。悪魔が高笑いするフォーメーションに、この時の自分はベンチにいたなと視線を脇にやった十文字は、自分の目線が俯瞰の位置にあることと、ベンチにもいないことに気づいて青ざめた。

十文字のスパイクを履いていない足元から風が吹き上がり、目の前を大きなシャツが膨らみながら上へ上へと飛んでいく。

酒癖から、夢であるからとフィールドへ戻るよりも異物である白いシャツを追いかけようと透明な階段をのぼろうとした十文字を引き止めたのは、望んだ年上の大きな手ではなく唐突な年下の大きな腕だった。


(つづく)

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