飛び散る汗と鋭い掛け声。

目の前では熾烈な組手が行われている。


ーー門倉雄大@鍛錬室


「次来んかい!」
「はい!」

門倉さんが大きな声で呼ぶと、壁際に控えていた黒服さんが飛び掛かる。彼は「はーっ!」と大きな声を出しながらそれをいなした。暑苦しいんだけど、一周回って優雅な感じさえする。洗練された動きというものは素人が見ても分かるものなのだなあ。いや凄い。

「次ぃ!」

門倉さんがまた声を上げるが、さっきのように誰も飛び出ていかない。ありゃ?と思って黒服さん達を見ると、何故か彼らもこっちを見ているではないか。

「…一応言いますけど、私はやりませんよ?」
「えっ」
「えっ」

何故そう思ったのだろうか。どう頑張っても戦闘員に見えないだろうに。私は愛想笑いをして、座り直す。次の黒服さんはちゃんと飛び出した。

「ちゃうやろー!」
「スミマセン!」

黒服さんをポーンと投げ飛ばして、門倉さんが叫ぶ。

「サボっとんとちゃうぞチビいぃぃ!」
「へえええ?!」
「来たからには真面目に組手せんかい!」
「やなこった!私は貴方が見学に来いって誘うから見に来ただけですもん!貴方に組みついて生きて帰れる気がしない!」
「勝てんくてもやるんじゃぁぁぁ!」
「いやですこんちくしょう!」

逃げる私と追う門倉さん。予期せぬ形で始まった熾烈なバトルは、小一時間続いた。






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