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□苦い飴
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「よぉ、なんか久しぶりだな。ロード!」

オレのマスターはまだ学生で、夏休みがある。
そのせいか、イービルに会える時間はめっきり減ってしまった。
だから、オレのマスターとイービルのマスターが会う時、オレ達も会うことが出来る。
嬉しいんだ。
凄く会えるのが嬉しい。
楽しみで、楽しみで、でも・・・心が、心臓が痛くて苦しくて、悲鳴をあげる。
これは、何故なんだろう。
せっかく、イービルにあえて、愛しい気持ちで一杯になって、嬉しいのに・・・苦しい。
「ロード・・・?」

イービルが心配そうにこちらを覗き込んでくる。
覗き込んだ時、必然的に顔が近くなり、オレは慌てて顔をそらした。
すると、イービルの指がオレの目元を霞め、離れた指は濡れていて、そこで初めて自分が泣いていると気付いた。

「なんか・・・あったのか・・・?」
「なんにもないよ・・・イービルには、関係、ないだろ・・・」

思ってもいないことしか出ない口は、自らの心を砕いていく。
こんなんじゃ、イービルに嫌われると分かり切っているのに素直になれないんだろう・・・
さっきだって、嬉しかったじゃないかありがとう、大丈夫ってたったそれだけをなんで言えない・・・!?

「・・・すきなのに」

ぼそっと、しかも小さく早口に言った、本音は隣にいる背の高い男には聞こえてなどいないだろう。
告白はしない。
告白なんてする度胸はこれっぽっちもない。
だからさっき、最初で最後の本音をこぼした。
聞こえないように、空気に混ぜて。





「ロード!そろそろ帰るよ」
「え、あ・・・はい」

別れの時間、早く来たようで遅かった気がする。
マスターの元にいこうと、足を進めたときに、手に柔らかく暖かいぬくもりを感じた。

「・・・・・・・・!?」

それは手だ。
黒く陽に焼けた、細く長く骨張った、イービルの、手。
恐る恐る、振り向けばいつになく真面目な顔をしたイービルがいて、胸が跳ねるのを感じた。








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