‡桜月‡
□『明日への証』
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今は定位置となった縁側に腰掛けた土方は、満天の空に光を降らす太陽に向けて、左手を伸ばしていた。
日の光を浴びても辛く無くなった今だからこそ、
いつか逝くならば陽の光の下がいい、と。
そしてその時傍には、千鶴がいて、桜でも咲いていたなら…
と、そこまで考えた土方は、軽く頚をふった。
少し前までどこで死んでもおかしくはなかったこの身は未だしぶとく生き永らえていて、妻となった千鶴さえも傍に居てくれるのだ。
これ以上破格の幸せは望めまい。
「未練、だな」
そう呟くと、土方は喉の奥で低く笑いを漏らした。
「あの、歳三さん?」
「!あ、あぁ…お前か」
掛けられた声に振り返ると、そこにはお茶を持ってきた千鶴がいて、土方の傍に腰を下ろした。
「すみません、驚かせてしまいましたか?」
「いや、大丈夫だ」
千鶴が聞いていたら間違いなく怒って、最後には泣かれるだろう事を考えていただけに動揺したが、土方はそんな内心を悟られぬよう静かに答えると、千鶴のもってきた湯呑みに手を伸ばした。
土方好みに煎れられた茶が、緊張して渇いた喉を優しく潤す。
「うめぇ」
「ありがとうございます。それであの…」
「ん?」
「歳三さん、先程手を翳してましたよね?あれは何をされていたのですか?」
「見てたのか。あれはな」
土方は先程していたように、もう一度手を翳してみせた。
「生きてるな、と思ってな」
「生きてる?」
「あぁ。こうして日の光を浴びてると、僅かだが暖かくてな。まぁこのくらいじゃあ実感もなにも湧かねぇが、それでも熱が感じられるってのは生きてる証拠だろ?」
千鶴は、そうですねと呟いて少し考える素振りをみせると、徐に土方との距離を詰め、「失礼します」と言い置いてから土方の唇へと口づけた。
「ちづ……」
そんな行動に驚いた土方だったが、はらりと顔にかかった千鶴の髪を目の端に捉えながらも、千鶴のそれに応え続けた。
何度となく味わってきたが、それでも土方の唾液で濡れそぼった千鶴の唇は離しがたく。思わず追ってしまいそいになる衝動を無理矢理に抑えると、土方はすっかり頬を上気させた千鶴を正面から見つめた。
「歳三さん。私の熱は…伝わりましたか?///」
土方が、あぁ‥と答えると、千鶴は恥ずかしそうに両手で頬を抑え、瞳を反らした。
「歳三さんに直接熱が伝えられれば、もっと…もっと生きてる事を実感してもらえるかと思いまして…けど、安易すぎますよね?す、すみませんっ///」
「待てっ。そういうことなら」
「え?…ひゃ!」
土方は、身を引こうとする千鶴を捕まえて横抱きにすると、もう一度千鶴の熱を確かめるようにその唇をもとめた。
二度目は熱い口内に加え、抱きしめている千鶴の体温すらも如実に伝わってきて、そこまで感じてしまえば土方が止められるわけもなく。
「‥もっと。もっとだ。」
「まだ、足りません、か?」
荒い息を整えながら、千鶴は土方を見つめた。
「あぁ、全然足りねぇ。もっと熱いとこじゃねぇと」
「けど、そんなとこ…」
「あるじゃねえか」
土方はにやりと笑うと人差し指で帯を突つき、つぅ…と下へ降ろして、そしてぴたりと動きを止めた。そこまですればさすがの千鶴でも理解して、慌てだした。
「と、と、としぞう…さん?そこは…!?」
「やっとわかったか。こんだけお前を抱いてる俺が、お前の一番熱の篭る、暖かけぇとこを知らねぇ訳ねえだろ?」
「で!…ですが、まだ日が高いですし!///」
土方は膝の上でわたわた仕出す千鶴の耳元で、これ以上ないほどに優しく、甘く呟いた。
「俺に生きてる事を実感させられるのは、お前だけなんだ。千鶴、もう観念しちまえ。」
「そんな言い方………いじわるです///」
千鶴はぴくりと体を震わせると、土方の胸に顔を埋めた。
曰く、土方が今日生きている事と、千鶴が傍にいることは同義なのだと。
「千鶴。お前は暖かいな」
明日を生きていく、その証を抱きしめている土方は今、無性に生きたいと願っていた。
【End】
似たような話を沢山サイトにUpしているような気もしなくはない、今日この頃です。(苦)
奥様な千鶴ちゃんに生命力(笑)と若さ(大笑)をもらって、長生きしてください、土方さんっ!
2010、12、21 日和 伽耶
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