‡桜月‡
□『ジュトゥヴ』
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「千鶴、お前が欲しい」
「へっ?!…きゃ!」
俺の物言いに驚いた千鶴は、素っ頓狂な声を上げて尻餅をついた。
「おいおい、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございま…す………」
大丈夫だと言う千鶴を、俺はそのまま自分の腕の中に閉じ込めた。
「よかった。お前に怪我でもさせたかとひやひやしたぜ」
「ひ、土方さん?あの///何かあったんですか?」
「いや、何もねぇが?それより千鶴、返事は?」
「ほ、本気だったんですか!!////」
思い出して頬を染めた千鶴は、本気で俺から身を離そうと俺の胸に手をついた。
「冗談であんなこと言うかよ。本気だからいったんだ。…駄目か?」
俺は千鶴を引き戻し、耳元にかかる髪を弄びながら唇を寄せて囁いてやると、千鶴はふるりと震えた。
「で、でも…」
「でもじゃねえだろ?」
俺は、あくまで千鶴を待ってやる。唯、盛大に焦らしながら。
「…ゃ…ない…です」
「千鶴。もっとだ。もっとはっきり言え」
数秒の後に千鶴はまた繰り返した。
「嫌じゃ…ないです///」
「やっと観念したな。まあ、俺にここまで言わせといて素直にならねぇなんて、どのみち許さねぇがな。」
「そんなっ///それじゃ、私は何を言っても拒否できなかったんじゃないですか!」
「そんなの認める訳ねぇだろ?お前の身も、それから心も俺が貰うんだからな。」
「か、身体はともかく、心はとっくに土方さんのものです//…けど、本当にどうなさったんです?」
「それは…」
と口した途端、辺りが暗転して、千鶴を抱きしめていた俺の身体が桜の花びらになり始めた。
俺は、あぁ、終いかと、いっそ潔いほどに、自分の最期を納得した。
「土方さんっ!!!」
それでも千鶴は俺を凝視し、桜に変わりつつある身体を必死に留めようと、俺に抱きついた。
「私を置いて行かないで下さい、土方さん!!私が欲しいって言ってくれたんじゃなかったんですか!?」
泣きだしそうになるのを懸命に堪え、千鶴は訴える。
「ああ、そうだ。だからお前の答えを、現実の俺に言ってやってくれ。此処にいる俺は、現実の俺がお前に飛ばした、偽りのない心だからな。」
「現実の…土方さんに…?…」
頷き千鶴の頬に手を当てた。
「忘れんなよ?俺の言ったこと。」
「届けます!私の、答えを。必ず!」
千鶴の答えに満足げ笑うと、俺は花びらの最後の一枚へと変わり、意識が完全に途切れた。
「ちづ……」
目を覚ますと、俺は何かを掴もうとするかのように腕を持ち上げていた。
「……夢、か。」
俺は、仮眠していた自室のソファーから起き上がると、窓を開けて重いため息を一つついた。夢にみるほどにはっきりと気づいてしまったこの気持ちが、言えるならばどんなにいいか。
「どうあっても、俺の心はお前を求めちまうんだな。千鶴……」
空を見上げ、初めて会ったあの日のように煌々と輝いている月に手を伸ばすと、俺は掌の中の月を捕まえた。
END
ご存知の方も多いかとおもいますが、題名に使った『ジュトゥヴ』とは、クラシックの曲名です。サティ作曲の。直訳するとそのまんま。土方さんが開口1番に言っていた、「お前が欲しい」という意味です。
最初は甘いの書いてたつもりなのに、なーぜーか甘切になってました。
…あれ?
そして、ただ今拍手に掲載している、『伽羅』と同時期の、土方さんの視点の話となってます。
夢の中に願望が現れるのは、それだけ千鶴ちゃんを想う気持ちで占めているということで。
それでは!
2010、11、11 日和 伽耶
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