‡桜月‡

□『雨催い(あまもよい)』
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「ふふっ」

「お前、何笑ってやがる?」

道すがら、自分の後ろで笑い出した声に足を止めた土方は、渋い顔で振り返った。

「いえ、ただ…」

「ただ?」

「鬼の副長さんに叱られても平気な方々が此処にもいらしたんですね。なんだか色々と思い出してしまいまして。」

千鶴は懐かしそうに目を細めたが、土方はやめてくれといわんばかりに溜息をついた。

「あいつ等みたいなのがそうそう居たら、たまったもんじゃねぇよ。あれはお前が絡んでたから、つい…だな」

「私、ですか?」

不思議そうに聞き返す千鶴に、やはり無意識だったのかと土方は肩を落とした。

「お前がそこら中で愛想ふりまくからいけないんだ。あんな酔っ払い連中なんぞに、お前を見せたくなかったのに。」

「ですが歳三さんの妻としてご挨拶をしない訳には…」

「お前は俺だけに笑ってりゃいいんだょ。可愛いお前を大事にしまっておきたい旦那心を、少しはわかりやがれ」

土方は尚も食い下がる千鶴に、反論は許さないとばかりに強く抱きしめると、切なげに吐露した。

「ごめん‥なさい…」

千鶴は土方の気持ちに気付けなかったことを悔やみ、細い腕を土方の背に回した。
もし立場が反対ならば…千鶴とて面白くはないだろう。
千鶴は、自分から土方の胸に擦り寄った。

「歳三さんは間違ってません。だって私は貴方のものなんですから。」

「………」

土方は千鶴から離れると、千鶴から奪った傘を片手に二本持ち、もう片方の手でしっかりと千鶴の手を握りしめて歩きだした。
前を向いて表情は見えなくなってしまったが、しっかりと握られた手と、髪の間からちらりと見えた土方の耳が赤く染まっていた。

「歳三さん?」

「うるせぇ。黙って歩け」


千鶴は、土方にわからない様にこっそりと微笑むと、握られている手をしっかりと握りかえした。

「はい。どこまでも歳三さんに着いていきます。」






見上げれば、
あれ程厚く立ち込めていた雨雲はいつしか千々に消え、星明かりが輝いていた。




End


やっとUpできました!
こういう設定、私は好きなんですが、皆様にはお楽しみいただけましたでしょうか?

「とにかく新選組の面子のように、土方さんに負けない人々をだしたい!!」
というのが私の中にあったので町の人々という形で今回は登場させました。
(苦笑)

もしよろしければ、感想いただけると嬉しいです。
ではっ!!



2010、12、6 日和 伽耶

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