『ロマンチスト×エゴイスト』 T

□フィードバック・アカウント
1ページ/28ページ

4、フィードバック・アカウント
「お前はどうしてまだ生きている?」





 長い階段を歩いていた。

闇の中、ただひたすらに重く冷たい脚を引きずり、コンクリートの壁に手を這わせ
頭上にある鋼鉄の扉を目指す。
腰まで伸ばした長い金髪が上下する肩に跳ね返り、切れかかる電球の灯に反射した。

その一瞬、幽鬼の様に浮かび上がる顔は血と涙で汚れていたが紛れもなく自分自身。
エメラルド色の双眼は憎しみに揺らぎ、一歩を踏み出す度かみ締めた白い唇から嗚咽が零れる。


『殺す』

確固たる殺意。
脳裏に浮かぶのは一点だけ。

あの『男』を殺す。

全ての元凶であり、恐るべき力で人の精神に感染するあの『病魔』を。
殺さなければならない。
それこそが自分に与えられた使命。
その為に全てを犠牲にしてきた。

何もかも。

大切な、友までも。

「…っつ…」

大声を出しては気付かれると必死で口を閉める。
あの扉を越えた時、自分は再び「奴等」の仲間に戻らなくてはならなかった。

それは心を殺す行為。

けれど「我々」は歩き続けなければならない。膝を着いては二度と立ち上がれないから。


…せめて、あと少しだけ。

そう呟き続けようやくたどり着いた扉のノブを…回そうと伸ばした指が空を掴む。
(…え?)

先に開けられた扉の向こうに一人の青年が立っていた。

「おやァ?その格好…もしかして?」

 紅い髪と紅い唇。紅い衣装。
黒ずくめの自分とは全く異なる姿のその青年に全ての思考が止まる。

 白紙に返った頭からは何の言葉も浮かばなかった。

「殺しちゃったの?」

 今にも噴き出しそうな笑いを堪え、腹を抱えて青年は問う。
否…彼は『青年』、では無い。

「…ど、う…」
 どうしてー此処に。

 そう思うが声が出ない。

ただ大きな瞳が彼の姿を見つめ、困惑に染まっていく。
 何故なら自分は、この人をよく知っていた。
名前どころか、その役割も、関わりも…だってこの人は。

 ―この「方」は!

「あ な た は…!」



 何かの間違いではないだろうか?
もしくは自分を助けに来てくれたのではないか?

そんな淡い期待も次の言葉に打ち砕かれ、全身を濃い闇が頭からどろりと滴り落ちるのを
感じた。

「アッハー…!殺したんだ!?酷いなぁ意は!

相棒なのに!?親友なのにィ!?オレだってそれはしないぜ!?」

 青年の甲高い笑い声を浴び、眩暈と頭痛、吐き気が込上げる。

昨日までは優しく励ましてくれた「声」が、今同じ声音で自分を嘲笑う。

体が震えるのは、恐怖なのか憤怒なのか判らない。
ただ胸を締め付けるのは絶望のみ。
今まで一身に抱いてきた支えすら砕かれ、友人の血を吸った手を握り締めた。

「…貴方が…「我々」を裏切って…いたんですね……今まで!」

  
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ