2SEASON
□エンゼルクラック・トレランス
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9.エンゼルクラック・トレランス
「僕達こそが正義、お前を殺す唯一の剣」
「…俺は剣くらいでは死なない。お前等はどうだ?」
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太陽が漸く地平線から半分ほど浮かび上がっていても砂漠の外気はまだ寒い。
起床時刻の数分前であるにも関わらず本館ロビー中央は蛍光灯で照らされ制服に身を包んだ
若者達の白を一層際立たせていた。
彼等は殆どが中級から上級クラスの天使。
眠っていた処を前触れも無く寮長に叩き起こされ、これから何が始まるのか知らされていない。
異例で急な大天使の帰還と閂と馨の処遇は昨夜の内、瞬く間に知れ渡っていたがその他にまだ何か在るのか。
緊張に背筋をピンと張り規律正しい姿勢とは反し、偽れない畏怖の眼差しをさも当然であると一身に浴びた四人は靴音を鳴らす。
脇を通り過ぎる度、辺りには不穏な空気が流れていた。
「で?どれ?」
リーダーらしき先頭の少年が微笑みを絶やさないまま、一歩後ろに控える三人の誰とも無く訊ねると手にしていた書面を一枚捲り、白銀の髪色をした青年、仄(ホノカ)が応える。
「此処には居ない様だ」
「ぱっと見で判るものか?」
すかさず横から転(ウタタ)が書面を覗き込む。
端整で影のある仄とは対極の優雅さと華やかさを持つ転は疑わしい、と右瞼から頬にかけ
大きな十字の傷痕が在る隣の男に目配せした。
「特徴の一番初めに「ショッキング・ピンクの頭髪」と記されている」
言われくるりと見回すと確かに、白服に浮いた髪色の隊員は居ない。
つまりはボイコット。四大天使の召集に来ないとは前代未聞だ。
善と秩序の手本となる組織の一員が道化師の様な姿だとは。
「上官が無能ならその部下も白痴か」
常に他者への怒りをふつふつと抱えている藜(アカザ)の言葉に、少年は涼しげな瞳を華やかせた。
背後を護るラファエル、ガブリエル、ウリエルの三人に振り返り、命(ミコト)は初めて無邪気な笑顔を浮かべる。
「ピンク頭?本気?どういう嗜好?」
命の好奇心は時折妙な部分に喰いつく。
揃って一筋、それぞれ深紅のメッシュを入れた四人もかなり異質だと思うが。
―とは言えない仄は短く咳込み書類を閉じた。今件の「主役」が居ないのなら無意味だと悟ったのだ。
「あの。」
楽し気にふわりと破顔する命と、冷めた表情の三人に向かって、最後尾から一人の若い天使が怖々手を上げる。
人垣を縫いひょこりと進み出たのは16〜7歳くらいの少年で、淡い小麦色の跳ねた髪を伏せ、視線は床に向けたまま口を真横に結ぶ。
三人はほぼ同時それぞれの獲物に手を伸ばした。
それが仲間であろうとも。彼等にとって信用出来るのは自分と三人だけ。
問答無用で斬りかねない剣幕に前列で見ていた数人が息を呑む、―が。
伸ばした手を下ろすと胸元で両手を組み、指先を落ちつきの無い仕草で絡め歩み寄った
突然現れて、何も知らない癖に無能だの白痴だのよくもそんな台詞が云えるものだ。
(あの人は決して、「馬鹿」では無い!)
畏れを浮かべながらもどこか責める様な強い憤りを宿し、杳(ハルカ)はつい、と指先をロビーから東南に示す。
「それって蒐さんの事ですよね?蒐さんなら多分…」
動きに応じて顔を向けた先は本部の最果て。
戦闘要員、訓練生の宿舎区域と隔す場所は職員達の私室と事務室が並ぶ。
『E棟、執務室』、『職務室004』
それぞれ閂と馨が使っていた部屋だった。