EXTRA


□Monochrome:Re
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1、黒と黒、遭遇す。





「今日も実にいい天気だ、どこかから血の匂いがするね。」
 
 そう言われて顔を上げると、ラウンジから窓を半分開け下界を見下ろす鼎が笑う。
最上階の窓から見る景色は、肩を並ぶ建築物が一切無い。
自分の目に映るものといえば重苦しく漂う灰色の雲くらいだった。

「…。」
 相変わらずの退廃嗜好に、もはや何も応える気にもならない。
背中を見ていた円が後ろから静かに窓を閉めた。

「体を冷やす。」
「…その時は誰かに暖めて貰うかな。」

 涼しげにそう言うと目の前の漆黒が曇るのを見て、また笑った。
日差しを遮るようシャツの胸元にかけていた紫紺のサングラスを片手で軽く鼻先に乗せ、指で押し上げる。

 そんな鼎をただ眺めていた円だったが、いつにもまして容貌の白さが際立つ…
と思ったのは、この天気のせいだと気がついた。

 薄暗い部屋の中は白と黒の境界が曖昧で、色素の薄い鼎はより白く。
自分はまるでその影そのものだ。
「…。」

 2人の間にそれ以上の会話は成立しない。

自分に興味を示さない鼎から視線を外すと、少年が神妙な面持ちで部屋に入ってくるのが見えた。

 真紅の携帯電話を顎でパタリと閉じ、2人に歩み寄るとわざと間に割って入る。
ソファに深く腰を下ろす鼎の隣に座り、ぴったりと体をつけおずおずと尋ねた。

「鼎サマ、「闇紅」って知ってる?何でも今から来るって連絡あったけど。」

「ああ…暗殺組織のナンバー1らしいね、何でも使用武器の刀が折れたとか。」
 自分の肩にもたれる、淡い赤紫色の髪をふわりと撫でた。
比較的簓に鼎は優しい。円には向けられない微笑みで答える。

「ふ〜ん、専用武器があるんだ?プロって感じ…。
何でもその辺の物掴んで人にブッ刺す誰かさんとは品格が違う。」

「人を殺す事に品も何もあるか。」
「円はセッソー無しってこと!」

 鼎とは一転した冷ややかな視線を上目つかいに向け少年は、もう一度頷き工房へと降りていく。
物がわかれば、あらかじめ用意しておくのは容易い。

武器に関してはかなりの知識を持つ簓は、既に仕事に取り掛かる様だった。


「闇紅…。」

 喜びを露にする鼎に対し、険しい表情を色濃く表す円は冷徹に、その名前を呟いた。
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