Rose branches

□Rose branches -34
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 異変が起きたのは、屋敷へ向かう馬車の中でである。

「う…」
「いかがされたのですか?」
「いや…」
「お腹でも、壊されたのでしょうか?」

 シエルの隣に座り直し、腹部を撫でる。

「いい…っ」
「ですが、お辛そうですよ」
「…お前は…っ、いつから気が付いていた?」
「劉様がいらしたときからです。しかし大丈夫だと私に向けて合図なさったので、何かわけがあるのだろうと」
「ああ、あいつらの武器の密輸をおさえることは、我が国にとっても……」

 シエルはふと口を噤んだ。

 足を閉じ、セバスチャンの腕の中から逃れようとする。

「坊ちゃん?」

 身体の熱の理由、大紅袍と共に飲まされたものの正体が、朦朧とした意識の中で閃く。

 それは間髪を容れず、セバスチャンにも伝わってしまったらしい。

「嗚呼、そういうことですか」
「…油断、した…」
「それで劉様は私に、大丈夫だと…。損はさせない、という意味だったのですね」
「何が大丈夫だ…、うっ…」

 意に反して、身体が触れ合うものを求めてしまう。薬の効果が、服の上からでもはっきりとわかる形で現れる。

「きつそうですね…?お脱ぎになりますか?」
「まだ…っ、屋敷に、着いてから…」
「…劉様にこのような悪戯を仕掛けられたというのは、少々不満ですが…まあ、このようなお姿をお二人に晒さずに済んだのは」
「…は…ぁっ、ん…」
「タイミングが良かった、と言うべきでしょうか?」
「何、…くっ…」
「簡単に捕まってしまったお仕置きの代わりに…たっぷりと可愛がって差し上げなくては、ね…?」







 昨夜愛し合ってから、まだ半日も経っていないベッドの上で、腕と腕、脚と脚がもつれ合う。
 感度の増した、細い腰を幾度も引き寄せる。

「ふ…坊ちゃん、…イけばイくほど、欲しくなっているのではないですか?」
「はぁっ、ああっ、んっ…セバスチャン…セバスチャ…ああっ」
「薬の力が働いているとはいえ…嗚呼、本当はこんなに…」
「ち…がっ…はぁん、あっ、あっ、んん…っ」

 そう、飲まされたものの所為で、いつもと違う自分になっているのなら。

 問えない言葉も、口にすることができるのだろうか。

「おま…えは…、は…はぁっ…」
「何です…?」
「ん…っ、怖…い、と、思うことが、ある…、か…?」
「ございます…よ」

 耳元に届いた、声は強い。

「貴方を失うのは、怖い。本当は…一刻でも早く、お迎えに…」

 シエルの身体を自分の方へ向けさせ、柔らかい大腿を掴む。

「貴方に溺れてゆく自分が…怖い」
「ん…んっ、あっ、あっ、セバス、チャ…ッ、ああっ…!」

 四度目の射精で、シエルは一瞬気を失ってしまった。

「…、はぁ…、…僕は、今…」
「そろそろ、薬の効果が抜けて来た頃でしょうか?」
「もう…、金輪際、ごめんだ…」
「そうですか…?たまにはこういうのも、よろしいのでは」
「…馬鹿…っ」





(疑問は…解消されたのでしょうか?)

 小さな寝息を立てるシエルには、今度こそ満ち足りた時間が訪れていた。

 白い耳朶に光るピアスに、劉の言葉を思い出す。
 自分の血も、悪魔らしくない本心も、目に見える形でシエルの傍に生まれ変わればいいのにと思った。


 シエルを知るまでは、怖いなどという感情はなかった。

 出会って生まれたものは、それだけではない。

(その私は過去には存在しなかった。…そしてこれから先、その私を見せるのは…貴方しかいないのですよ)

 その気持ちをまっすぐ伝える言葉も、まだ、わからない。

 わからないということさえ、昔の自分は、知らずにいた。


END

<後書きがあります…!>
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