Gift(ありがとうございます!)
□『おくりもの。』(小説)
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「・・・変だ」
何も纏わずベッドに寝転がったまま、セバスチャンが身支度を整えるのを眺めていたシエルが、小さく呟いた。
セバスチャンは手に取ったばかりのウェストコートをまたソファに放り投げ、ベッドに腰掛けると主人の頬に触れた。
「どうされました、坊ちゃん」
「・・・変」
「何が変なのです?」
「お前」
「私ですか? 何かおかしいでしょうか」
「ああ」
「何がおかしいのですか?」
「服」
「服ですか?」
「・・・」
「坊ちゃん、寡黙でらっしゃるのは結構ですが、その会話能力は幼児レベル以下ですよ。きちんと文章になさいませ」
セバスチャンは優しく撫でていた頬をきゅっとつまんだ。
シエルはその手をぱしりと払うと、
「だから、お前の服だ。変だと言っている」
じろりとセバスチャンを睨みつけた。
「そう仰いましても、いつも通りの衣装ですよ。特段変わったことは無いと思いますが」
「だから、その燕尾服が変だと言っている」
「変も何も・・・。ああ、もしや坊ちゃん、ベッドに入りすぎて、少しおつむが飛んでしまわれましたか?だとすれば、今夜は少し控えなければいけませんね」
「お前が言える台詞か。そうじゃなくてだな・・・」
「はい、何でしょう」
「だから、一応これは休暇なんだから、もう少しだな。・・・その、らしい恰好を、したらどうだと言っているんだ」
「これはまた、おかしなことを仰る坊ちゃんですね」
セバスチャンはくすくすと笑いながら、シエルを自分の胸に引き寄せる。
「そもそもこれは貴方の休暇であって、私が暇を頂いた訳ではないでしょう」
「うるさい。何でもいいから、さっさとその格好を改めろ」
シエルは、シャツだけを身に付けた男の体を両手で押しやった。
「残念ですが、私にはこれ以外の衣装の用意がございませんので」
「・・・そこのクローゼットを開けろ」
「クローゼットですか?」
シエルの顎指す方を見ると、確かに部屋の奥にクローゼットが備え付けられていた。
「いいから、さっさとしろ」
シエルに急かされるようにセバスチャンはそちらに歩み寄った。
取手に手を掛け、扉を開けると、そこにはジャケットやシャツ、ロングパンツなど紳士物の衣類が数着吊るしてあった。
その足元には数足の靴と、寝間着らしいリネンの上下まで用意されている。
セバスチャンはそこからひと揃えを手に取り主人の傍まで歩み寄ると、
「坊ちゃん、いくらお小さいことがコンプレックスだとしても、さすがにこのサイズは貴方には大きすぎますよ」
ベッドにそれらを並べながら苦笑いした。
「誰が僕の服だと言った。お前のだ」
「この流れですからそうでしょうね。寸法が私にぴったりなようですし」
「ここに滞在する間は、それを着ろ。帰るまで、その燕尾服に袖を通すな」
「しかしこれは、どれも使用人が身につけるのに相応しくはありませんね」
どちらかと言えば砕けすぎてはいないスタイルなのだろうが、しかしデザインにしても、生地にしても、給仕される側が身につける物ばかりであった。
「僕の命令が聞けないのか」
「坊ちゃんが何と仰ろうと、私は執事という仕事に相応の美学を持って臨んでいるのです。それがいくら主人の命令でも、簡単にそれを崩す訳にはいきません」