ReBirth

□ReBirth -03
1ページ/2ページ


 ファントム社通信。

 どこの会社にも、二割は優秀な社員がおり、六割は普通の社員がおり、更に二割は少々やる気のない社員がいる。

 また、二割くらいは寡黙だが、八割くらいはお喋りが好きで、その中の一割が話のついでに『自分たちだけの広報紙を作ろう』とジャーナリズムに満ちたグループを結成することもある。

<仕事始めは、いつでしたか?>

 ロンドン郊外の工場から雪の森を越えて、郵便で送られてきたインタビューは、銀模様の綺麗な白い便箋に大きめの太い字で書かれていた。「一月二日から」とその横に書き込むシエルを見て、セバスチャンは香りの落ち着いたダージリンを淹れながら

「どうせ嘘を吐かれるのなら、一月一日からとお書きになったほうがよいのではないですか?」

と声をかけた。

「休むときはしっかり休む。ファントム社は玩具・製菓メーカーだ、余暇を潰して働くことを奨励しては、玩具の出番がなくなるからな…セバスチャン、杞憂だとは思うが、あとでこの『ファントム社通信』を出そうとしている社員達の背後に特定の政党が絡んでいないか、調査を…」
「イエス、マイロード」

 シエルは改めて、便箋の上の文字を見た。そんなことを疑われるとは思っていない、純粋な字だった。

 ダージリンは、クレオメの花のようなピンクと白のシュガーと供にデスクに給仕された。白いカップに、銀のスプーンと花の形に成型されたそれが美しい。外には、雪が積もっていた。

「仕事始めもした、新年会も済ませた、タナカの発案で羽根つきもした、それから…」

 何気なく呟いて、ふ、と口を噤む。カップに唇をつけ、離すまでに、頭に浮かんだ『…始め』とは別の言葉を探さなくてはならない。

「…あれもなさいましたね」
「…」
「Wチャールズ始め、ですよ」

 ほっと安心して、

「そんな名称をつけるな」

とシエルは首を振った。

 新年パーティーの料理が、目当てだったのだろうか。だとすると、今後もパーティーのたびに、白い襲撃に備えなくてはならなくなる。ロンドンからでは、ここはそう近いレストランではないはずなのだが…。

「恒例行事になっては困る」

−それに、お前と二人でいたいから。

 そんな言えるはずもない言葉を、シュガーがカップの底へ連れて行く。

「坊ちゃんは何故、賑やかな場がお嫌いなのですか?」
「作り笑いに、社交辞令…」

−それに、お前ともっと二人でいたいから。

 カップに口をつければ、その言葉が唇の内に蘇ってくる。

「純粋ですね」
「そんなわけ…」
「純粋ですよ。それだから、笑う方法をお忘れになっている」
「お前だって、心の底からは笑わないじゃないか」

 二人は顔を見合わせた。
 
 二人、同じものを有していた。





「…最後の答えが思い付かない」

 服を脱がされながら、シエルは呟いた。
 身体の中のあちこちで、朝の小鳥の囀りのように、歓喜のざわめきが起き始めていた。

 インタビューの最後は、

<仕事をしていて、楽しいと思うのはどんなときですか?>

というものだった。いくらでも答えようがあるが、楽しい、という疎遠な言葉が、ペンを滞らせた。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ