ReBirth
□ReBirth -03
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ファントム社通信。
どこの会社にも、二割は優秀な社員がおり、六割は普通の社員がおり、更に二割は少々やる気のない社員がいる。
また、二割くらいは寡黙だが、八割くらいはお喋りが好きで、その中の一割が話のついでに『自分たちだけの広報紙を作ろう』とジャーナリズムに満ちたグループを結成することもある。
<仕事始めは、いつでしたか?>
ロンドン郊外の工場から雪の森を越えて、郵便で送られてきたインタビューは、銀模様の綺麗な白い便箋に大きめの太い字で書かれていた。「一月二日から」とその横に書き込むシエルを見て、セバスチャンは香りの落ち着いたダージリンを淹れながら
「どうせ嘘を吐かれるのなら、一月一日からとお書きになったほうがよいのではないですか?」
と声をかけた。
「休むときはしっかり休む。ファントム社は玩具・製菓メーカーだ、余暇を潰して働くことを奨励しては、玩具の出番がなくなるからな…セバスチャン、杞憂だとは思うが、あとでこの『ファントム社通信』を出そうとしている社員達の背後に特定の政党が絡んでいないか、調査を…」
「イエス、マイロード」
シエルは改めて、便箋の上の文字を見た。そんなことを疑われるとは思っていない、純粋な字だった。
ダージリンは、クレオメの花のようなピンクと白のシュガーと供にデスクに給仕された。白いカップに、銀のスプーンと花の形に成型されたそれが美しい。外には、雪が積もっていた。
「仕事始めもした、新年会も済ませた、タナカの発案で羽根つきもした、それから…」
何気なく呟いて、ふ、と口を噤む。カップに唇をつけ、離すまでに、頭に浮かんだ『…始め』とは別の言葉を探さなくてはならない。
「…あれもなさいましたね」
「…」
「Wチャールズ始め、ですよ」
ほっと安心して、
「そんな名称をつけるな」
とシエルは首を振った。
新年パーティーの料理が、目当てだったのだろうか。だとすると、今後もパーティーのたびに、白い襲撃に備えなくてはならなくなる。ロンドンからでは、ここはそう近いレストランではないはずなのだが…。
「恒例行事になっては困る」
−それに、お前と二人でいたいから。
そんな言えるはずもない言葉を、シュガーがカップの底へ連れて行く。
「坊ちゃんは何故、賑やかな場がお嫌いなのですか?」
「作り笑いに、社交辞令…」
−それに、お前ともっと二人でいたいから。
カップに口をつければ、その言葉が唇の内に蘇ってくる。
「純粋ですね」
「そんなわけ…」
「純粋ですよ。それだから、笑う方法をお忘れになっている」
「お前だって、心の底からは笑わないじゃないか」
二人は顔を見合わせた。
二人、同じものを有していた。
「…最後の答えが思い付かない」
服を脱がされながら、シエルは呟いた。
身体の中のあちこちで、朝の小鳥の囀りのように、歓喜のざわめきが起き始めていた。
インタビューの最後は、
<仕事をしていて、楽しいと思うのはどんなときですか?>
というものだった。いくらでも答えようがあるが、楽しい、という疎遠な言葉が、ペンを滞らせた。