ReBirth
□ReBirth -08
1ページ/2ページ
翌朝は爽やかな青空が広がっていて、学園のどこかで元美少年が泣いているとさえ思わなければ、実に気持ちのいい一日が過ごせそうだった。
シエルは慌ただしい寮の朝食のあと、寮監室でセバスチャンにモーリスの様子を観察しておくよう伝えた。
「向こうはやり過ぎだが、こちらはやり過ぎないほうが良い。退学しそうな動きがあったら、それとなくフォローしておけ」
「御意。…お優しいのですね」
「…別に」
短いキスをして、その場をあとにする。身体に血が巡り過ぎない程度の、ささやかな触れ合いである。
夕方、セバスチャンは白い紙に報告をしたためて、寮監室で待っていた。
「どうだった?」
「はい。写真の件は合成だと言っているようです。しかし、あの時坊ちゃんを押さえ付けようとした生徒達はあれで懲りているようですし、モーリスも人を使って何かしている様子はありません」
「レドモンドとの兄弟関係が解消された今、仕事を頼む必要もなくなったわけだしな」
「そうですね…兄弟関係解消の件は、まだ広まっていないようです。まあ、時間の問題かと」
「レドモンドが新しい寮弟を欲しがらなければ、案外広まらないかもしれないな…手足のように使える寮弟は便利な存在だが、あいつは人に裏切られることを恐れているようだった」
デスクに置かれた花柄のティーカップに手を伸ばしながら、シエルはレドモンドの横顔を思い浮かべた。
『お前まで俺を裏切るとはな…』
レドモンドは一体、誰に裏切られたというのだろう?
彼の身分や学園内での権力を考えれば、それ目当てで近寄る者は多いだろうが、それをいちいち信頼する彼とも思えなかった。もっと近い、血の繋がった者だろうか?
「気になるのでしたら、お調べ致しましょうか?」
ラズベリー・ソースをかけたマルキーズ・オ・ショコラをシエルの前に飾るように置きながら、セバスチャンが微笑む。小さなフォークの上にはすみれの砂糖漬けが咲いている。他の寮生には出されない、特別なデザートである。
「…いや、いい」
「そうですか?」
「そんな顔のお前に仕事をさせると、ロクな結果にならんだろう」
「…どんな顔です」
シエルはセバスチャンの顔を引き寄せ、深い碧の瞳で見つめた。二人の間の空気が、シエルの体温で僅かに温まった。
「妬ける、そう顔に書いてある」
細いうなじを伸ばして、形の良い唇に口付ける。すみれの砂糖漬けが、重なる舌の上で溶けた。
「ふ…私のことが、だいぶおわかりになってきたようですね」
「三年以上、一緒にいればな」
しかし、事態は思ってもみなかった方向へ動いたのである。