ReBirth

□ReBirth -09
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 制服を脱ぎ、絹のシャツを纏う。ひだのついた襟元をかき合わせ、ベッドに腰掛ける。
シャツは新しいが柔らかな織りで、着るだけで雑多な日常のあれこれをひだの向こうに押し遣ってくれそうな白が心地良い。
 シャツの裾をかき分けてそそり立つ、自分のそれを握り、吐息をつく。

『…気持ちの良いことを、なさいませんか』

 彼がそう誘いをかけてきた、藍色の夜。
思い出し、胸を刺す記憶の棘に顔をしかめる。しかし、身体のほうは容赦なく反応し、高みへと駆け上ろうとする。

「…はぁっ、はぁ…」

『…気持ちの良いことを、なさいませんか、レドモンド先輩』
『…っ、何…』
『イングランドの王たちは…昔、こうして召使に布を持たせ、自涜のあとの種を処分させていたとか。王様ごっこをしましょう、先輩?僕がこうして、ハンカチを持ってますから』
『…、モーリス…っ』
『お手伝いしましょうか?口で…』

 名門家の若き貴公子といえども、外界から隔離されたこの学園の中で異性交遊に耽ることはできない。しかし、級友とそうした関係を持つのは、プライドが邪魔した。
 満たされない日々を送っていたのを、寮弟であるモーリスが感じ取り、大胆な行動に打って出たのである。

 戯れはその一度だけだった。次の機会をうかがっているうちに例の事件が起こり、モーリスとの関係は白紙になった。

 自分を騙していた後輩に未練はなかったが、あの甘美な背徳は忘れがたかった。しかし、やはり、校内で相手を物色するには、レドモンドの一挙一動はあまりに目立ち過ぎていた。

 その視界に、シエルの姿が焼きついた。

 シエルなら、口説き落とすことができれば、秘密を守りながら上手に関係を保っていけるのではないだろうか?
 忍耐力、計画の綿密さ、一途さ−…。
好ましく、そして、望ましかった。

「…はぁ、くっ…シエル・ファントムハイヴ…」

 藍色の記憶はぼやけ、別の色が想像を塗り替える。

 一日だけでもいい、いや、一日で、落としてみせる。



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