The Secret Garden
□The Secret Garden-01
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使用人達に休暇を与え、二人きりになった館。
女王の手紙は今のところなく、大きな商談もまとまった。数日はのどかな生活がおくれそうだった。
(そうなると、退屈だな)
煉瓦と石材でできた屋敷はあまりに広く、手入れの行き届いた庭はいつの時期も散歩に適している。
また館には、どんな退屈も紛らわすことができるであろう自社製品が、多くは真新しいままそろえられている。
だが、シエルは物憂い表情で窓の外に目をやった。
珍しく、晴れた一日だった。オレンジ色の夕日が森の木々を照らし、藍色の幕を引こうとしていた。
シエル・ファントムハイヴ伯爵。幼くしてファントムハイヴ家当主、英国一の製菓・玩具メーカーであるファントム社社長となった。
館にいるもう一人は、悪魔で執事のセバスチャン・ミカエリス。紅茶色の瞳をもった、英国一有能な執事である。
(身長186cm、美形のな)
セバスチャンはこの時分なら、ディナーの準備をしているはずである。顔が見たくても、厨房に入っては叱られる。
(ぼくは当主で)
シエルは窓を開けた。濃い薔薇の香りが鼻腔をつく。
(あいつは、使用人だ―)
使用人だ。執事だ。下僕だ。
「セバスチャン…」
名前を呼び、胸の痛みに目を細めた。
執事だ。使用人だ。執事だ。執事、執事―…
(でも)
あたりはすっかり紺色になり、中庭の白薔薇が波に置いていかれた貝のように、月に照らされて光っていた。
(あの胸に甘えたい。夜空のように深い―、いや、陶器のように白いは…)
肌。そう思って、ぞくりとした。
自分は執事の、優雅な燕尾服姿しか知らないが―…
(どんな…)
見てみたい。自分とは違う、大人の彼の体を。
(でも、どうすれば)
服を脱いで。その上質な肌を見せて。冷たい胸に甘えさせて。
「…あいつは、僕のものじゃないか」
決心して呟いたとき、色を深めた空には既に星が煌めいていた。
欲しいものは、欲しいと言えば手に入る。
僕を抱きしめて。もっと、この契約の右目に近づいて。
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