The Secret Garden

□The Secret Garden-01
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「御用でございますか、坊ちゃん」

 銀のワゴンを下げようとしていたセバスチャンは、顔を上げてシエルを見た。

 テーブルには既に、食後の紅茶と、メープルシロップケーキ、いくつかのポルボロンがのせられている。
 ファーストフラッシュのダージリンはストレートで用意したが、ミルクの追加、それともデキャンティングしたワインのおかわりだろうか。

 シエルは銀食器を指に挟んだまま絹のナプキンに目を落とした。

「セバスチャン」
「はい」
「今日は僕と風呂に入れ」

 思いがけない言葉に、セバスチャンは少しキョトンとしたまま口角を下げた。

「はい、もちろん、髪を洗って背中を―…」
「体を洗えと言ってるのじゃない。一緒にバスに入るんだ。いいな」

 命令の威厳を込めた言葉とは反対に、シエルは少し、窺うようにセバスチャンを見た。
 青い瞳が、ネモフィラのか弱い花を思わせる。

(上目遣いで、おねだりですか)

 コホン。これにのせられてはいけない。

「お言葉ですが。使用人と入浴するなど主人にはあるまじき事」

 冷静に、言葉を連ねる。

「坊ちゃん、お立場をお忘れなく。ロンドン中探してもそのような貴族はいないでしょう」
「…っ…ロンドンのほかの貴族が、誰と入浴しているかなど、僕は知らん」
「コホンコホン。それは私も―…」
「屋敷にいるのは僕とお前だけだ。何も気にすることはないだろう」
「人目があるかないかの問題では、ありませんよ」

 ゆっくりと言葉を切って諭したが、シエルをムッとさせただけだった。人は迷いのあるときのほうが、頑固になりやすいのかもしれない。

「と、とにかく僕と入るんだ。わかったな。ご、ごちそうさま!」

 シエルはナプキンで乱暴に口を拭くと、音を立てて椅子からおり、そのまま出ていってしまった。

 セバスチャンはしばらく呆気にとられたまま、残されたデザートと食堂のドアを交互に眺めていた。



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