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□for 不死蝶企画 02
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「…おい!誰かいないのか!……っ…」
限界だった。
少し勃ち上がったそれをクッションに押し付けるようにして、力を抜く。じわじわと染みが広がった。
と、近付いて来る足音に気付き、シエルは慌てて下腹に力を込めた。
「ファントムハイヴ伯爵」
入って来たのはフィップスだった。シエルは舌打ちした。微かに涙が浮かび、こぼすまいと視線を天井に向ける。フィップスは手にシエルの深緑色のズボンと下着を持っていた。
「グレイがすまないことをした…だが、あいつがし損じるとは俺も思えない。よければ教えてくれないか?あの執事が生き返った理由を」
「…」
シエルは唇を噛んで黙っていた。何か言えば、力を込めているそこがたちまち緩んでしまいそうだった。
「まぁ、とにかく服を」
「…あぁっ…」
フィップスが脚を持ち上げた瞬間、シエルのそこは我慢できずに水音を立て始めた。フィップスはやや驚いた表情をしたが、クッションに縫い取られたメコノプシスの青い花が色を深めてゆくのを、黙ってしばらく眺めていた。
「はっ…あ…」
全て出してしまうと、シエルは固く唇を引き結んだまま顔を伏せていた。視線が注がれるのを感じた。身体の芯が燃えるようだった。と、目の前に揺れるハンカチの木の花―…。
大きな白い手がシエルの目元を拭った。その手はセバスチャンの手より温かく、金色に光っていた。
フィップスは濡れたクッションを空の石炭入れに放り込んでどこかへ持って行き、代わりにハーウィックの井戸水で濡らしたナプキンを持ってきて、シエルの下肢を拭き始めた。
「…くっ…」
シエルは何か言ってやりたかったが、黙ってされるがままになっていた。屈辱とも安堵ともつかない、まだらにざらついた気持ちが疲れた頭の中で揺れた。
まだ拭き終わらないうちに、扉の向こうからグレイが現れフィップスを咎めた。
「…何してるの?」
「…身体に靴の泥が付いていた…」
フィップスは淡々とそう答えると、シエルに下着とズボンを履かせた。グレイの目には再び怒ったような色が浮かんだが、その温度は先程とは違っていた。拗ねたような、甘えを含んだ声でグレイは不平を言った。
「フィップス。ボクとのお茶を中座したのは、そんなことするためだったってわけ?」
(…お前が延々食べてたからじゃないのか?)
フィップスはシエルから離れると、グレイの傍に寄ってそっと後ろから肩を抱いた。
「…ティータイムより、他で一緒に過ごす時間のほうが長いだろう」
「それとこれとは、別腹!」
「…」
フィップスはそっと白い髪を持ち上げ、うなじに口付けた。もう片方の手でズボンの前に触れる。グレイの頬は赤く染まり、眼はぼんやりとしていた。あまりの変化に、シエルは自分のした失敗のことはすっかり忘れてただ二人を見つめていた。
「…、やだっ…そんなに…、コイツが見てるのに…」
「お前が連れて来たんだろう」
フィップスはグレイを抱きソファの上に下ろすと、小さな唇に口付けた。聞いているほうが恥ずかしくなるようなキスの音に、もしかして‘自分たち’もこんな音を立てているのだろうかとシエルは思い、シャツにじんわりと汗が滲むのを感じた。
「は…ぁ、ねぇ、ここで…するの…?」
「…我慢できない」
美しく装ったグレイを一枚一枚脱がせる。フィップスは真剣な眼をしていた。さほど知っているわけでないとはいえ、あんな眼は初めて見る、とシエルは思った。グレイはあられもなく両脚を上げ、フィップスを迎え入れていた。
ふと、シエルは羨望を覚えた。
グレイなら、自分のように捕らえられていても。
迎えにくるだろうフィップスに『芋虫の様』などとは言わせないはずだ。
―芋虫の様で
―とても無様で
―…素敵ですよ。
(チッ…)