for Projects
□for 不死蝶企画 03
2ページ/3ページ
「は…っ!」
目の前が、眩しい。
白い光以外は、なかなか認識することができない。
頭だけは、妙にはっきりしている。微かに感じる消毒薬の臭い。ここは―…。
「目が、覚めたか?」
声のするほうを見、目を凝らす。包帯を外し、院内着を青いブレザーに代えたシエルが自分を見下ろしていた。
「何…故…」
「一日半も、よく眠れたな。お前が目覚める前に退院するところだった」
花瓶の横に、薬の瓶があった。確かに致死量分減っている。何故、自分は生きているのだろう。
「まさか…」
「プラシーボ、上のほうの何錠か以外は毒にも薬にもならない偽薬だ」
「…何故…わかったのですか」
「ゴシップ誌は‘彼女’のことでもちきりだし―そんな寂しそうな顔で菊の花まで飾ってる奴に、致死量のモルヒネを渡すほど僕は馬鹿じゃない。自殺者が出れば、病院の威信にも関わるからな」
セバスチャンは自分が失敗したことを知った。顔を覆い、呻いた。自分はまた、チャンスをふいにしてしまったのだ。
「…セバスチャン」
「…」
「一度や二度、落ちたからって、人生が終わるわけじゃない。落ちても堕ちても、また這い上がれる。僕たち人間は、その強さを持ってる」
セバスチャンは黙ったまま、顔を上げてシエルの深い青に沈んだ碧の瞳を見つめた。シエルはどぎまぎして視線を逸らすと、手にしていた花束を薬棚の上で解いた。
「治ったら、僕の屋敷へ来い。僕の勉強をみるとか、紅茶を淹れるぐらいのことはできるだろう」
「…坊ちゃん」
セバスチャンは、シエルの小さな手を掴んだ。
白い光の中で、藤色のスターリング・シルバーが病室の匂いを忍びやかに塗り替えていった。
花として、落ちてしまったのなら。
今度は蝶になって、この空を求めようと、思った。
END
<後書きがあります…!>