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□for 不死蝶企画 03
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「は…っ!」

 目の前が、眩しい。

 白い光以外は、なかなか認識することができない。

 頭だけは、妙にはっきりしている。微かに感じる消毒薬の臭い。ここは―…。

「目が、覚めたか?」

 声のするほうを見、目を凝らす。包帯を外し、院内着を青いブレザーに代えたシエルが自分を見下ろしていた。

「何…故…」
「一日半も、よく眠れたな。お前が目覚める前に退院するところだった」

 花瓶の横に、薬の瓶があった。確かに致死量分減っている。何故、自分は生きているのだろう。

「まさか…」
「プラシーボ、上のほうの何錠か以外は毒にも薬にもならない偽薬だ」
「…何故…わかったのですか」
「ゴシップ誌は‘彼女’のことでもちきりだし―そんな寂しそうな顔で菊の花まで飾ってる奴に、致死量のモルヒネを渡すほど僕は馬鹿じゃない。自殺者が出れば、病院の威信にも関わるからな」

 セバスチャンは自分が失敗したことを知った。顔を覆い、呻いた。自分はまた、チャンスをふいにしてしまったのだ。

「…セバスチャン」
「…」
「一度や二度、落ちたからって、人生が終わるわけじゃない。落ちても堕ちても、また這い上がれる。僕たち人間は、その強さを持ってる」

 セバスチャンは黙ったまま、顔を上げてシエルの深い青に沈んだ碧の瞳を見つめた。シエルはどぎまぎして視線を逸らすと、手にしていた花束を薬棚の上で解いた。

「治ったら、僕の屋敷へ来い。僕の勉強をみるとか、紅茶を淹れるぐらいのことはできるだろう」
「…坊ちゃん」

 セバスチャンは、シエルの小さな手を掴んだ。
 白い光の中で、藤色のスターリング・シルバーが病室の匂いを忍びやかに塗り替えていった。


 花として、落ちてしまったのなら。

 今度は蝶になって、この空を求めようと、思った。



END

<後書きがあります…!>
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