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□『2012年年賀状企画』(小説・イラスト)
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死神派遣協会、管理課。いつもは回収に出ている派遣員と報告書を仕上げる派遣員とが半々で、整然としたオフィス内だが、今夜は様子が違っていた。

ざわざわと大勢の死神たちがあふれ、あちらこちらで人垣が出来、思い思いに談笑している。その手には、缶ビールやシャンパンのボトルがあった。

時刻は、通常ならほとんど誰もいない筈の深夜11時55分。日付は12月31日。そう、誰が言い出したともなく、一番オフィスの広い回収課に各課の死神たちも集まり、忘新年会をやろうという事になったのだった。

「エリックさん、呑み過ぎですよ」

他人の金で飲食する事に定評のあるエリックは、一応会費を払っているとはいえ、誰かが買ってきた高級銘柄のシャンパンをくすねてきて、よく味わいもせずラッパ呑みしていた。終業時間の6時から始まったその宴で、もう何本ボトルを開けたか分からない。幾ら酒に強いとはいえ、いい加減素行の怪しくなってきたエリックに、アランはやや厳しい口調でたしなめた。

「ぷはー。あー美味ぇ」

本来ならシャンパングラスに慎ましく注がれ、気品と格調を持ってたしなまれるモエ・エ・シャンドンは、哀れビールのごとくエリックの味覚を素通りし、喉ごしだけで彼の腹に収まった。もしシャンパンに声があったなら、大声で苦情が上がっている所だろう。

「やっぱ人の金で呑む酒は美味ぇな。お前も呑めよ、アラン」

普段だったら、酒に弱いのを知っているアランに勧めたりはしないエリックだが、やはり酔いで何処かネジが緩んでいるのか、今しがたまで自分が口を付けていたボトルを、アランに向かって差し出す。

「俺は要りません。エリックさん、いい加減やめておかないと、明日の業務に響きますよ」

回収課の仕事は、文字通り死亡予定者の魂の『回収』だ。正月だからといって、休みが貰える訳ではない。『死』は時も場所も選ばず、等しく人間に降りかかる。

「かたい事言うな。忘年会くらい、呑ませろよ」

機嫌良く言って、もうひと口ボトルを煽る。

アランは自分が酒に弱い体質なのを熟知していたから、低アルコールのカクテルを、乾杯の際に形ばかり口にしただけだった。酒好きのエリックが羽目を外すのは予想が付いていたから、それにブレーキをかける意味合いでも、自重したのだ。

だが、日頃からのらりくらりとアランの説教をかわすエリックに、酔いが加わっては、もうアランの小言など睦言にしか聞こえていないようだった。

「エリックさん…!」

持っていたモエ・エ・シャンドンのボトルを呑み干してしまうと、その漆黒に真白なラベルの繊細なカーヴを描く瓶にももう用はないとばかりに手近なデスクに転がし、またそこに置かれていたシャンパンボトルのコルクに親指をかけ、開けようとする。それを見て、今度こそアランは強い声音を上げた。ボトルを取り上げてしまおうと、両手をかける。

だがその時、わっとオフィス中に歓声が湧いて、一瞬アランはその姿勢のまま気を取られた。何事かと辺りを見回すと、男も女も老いも若きも、皆一斉に10からカウントダウンを陽気に叫び始めた所だった。

『──3、2、1!』

『ハッピーニューイヤー!!』

ひと際大きく声が揃う。その馬鹿騒ぎを思わずポカンと見つめていると、エリックが親指をかけていたコルクが小気味いい音を立てて飛び、中身が勢い良く吹き出し、アランの顔に降りかかった。

「わっ!」

掌をかざし顔を背けるアランに、エリックは笑いながら、ボトルを振って余計に彼の身体中にシャンパンを浴びせる。シャンパンファイトだ。

「ちょっ…エリッ…」

目の中にもシャンパンが入りその発砲する刺激に翻弄されていると、今度は後頭部に手が添えられ、ぐいと引き寄せられた。

「んー」

唇に温かいものが当たり、驚いてつむっていた瞳を開けると、至近距離で同じ黄緑の瞳と目が合った。

「んんっ…」

アランはエリックの胸に掌を当て、慌てて身体を押し離す。

「…エリック!…さんっ!!何するんですかっ!!」

羞恥よりも驚愕が先に立って、抗議の怒号を上げる。

しかしエリックは気にもかけず、シャンパンのボトルを片手に、楽しげに笑い返した。

「新年には誰にでもキスして良いんだぜ? 見ろよ」

視線で促され、顔を巡らせると。デスクに座るウィリアムを真ん中に、グレルとロナルドが押し問答している所だった。

「ちょっ…やめなさい!貴方がた!」

ウィリアムの身体にねちっこく抱き付いたグレルが唇を突き出し顔を寄せ、迫っている。

「ウィル、照れなくって良いのヨ。新年ですもの!」

しかし反対側からウィリアムの頭を抱え込んだロナルドが、負けじと自分の胸に引き寄せ、結果左右からの引っ張り合いになる。

「サトクリフ先輩、スピアーズ先輩嫌がってるじゃないっスか!」

いつも冷静なウィリアムだったが、協会の品位と風紀にも気を配っている立場上、我慢ならなかったようで、やや声を荒げた。

「私はたまたま始末書の整理で残っていただけです!そんなクダラナイ習慣に興味はありません。離しなさい!」

と、革手袋の両掌を左右の二人の頬に当て、身体から引き剥がす。

「ちぇっ」

「ウィルのケチ!」

二人の不満そうな呻きをウィリアムの声音がかき消した。

「貴方がた回収課の始末書ですよ!特にグレル・サトクリフ!貴方は一体月に何枚始末書を出したら気が済むのか…」

さっそく、新年一発目の説教が始まる。

長い長い事で知られているそれを見て、新年早々グレルとロナルドが気の毒になり、思わずアランはくすりと笑った。そしてふと見回すと、周り中がキスの嵐だった。そこかしこで、男も女も老いも若きも関係なく、新年の挨拶として交わされる。

「な?」

エリックはしたり顔でニヤリと片頬を上げた。

「だからって…考えなしだ、エリック」

エリックにだけ聞こえるよう小さく呟いて、アランは手の甲で唇を覆って今更ながら頬を染めた。

その台詞に、エリックはようやくシャンパンのボトルを手放すと、

「じゃ、場所を変えようぜ。こっち来い」

代わりにアランの手を取った。

「え…何処…行くの?」

「黙って着いてこい」

いつもの強引さで、ひと気のない廊下を引っ張られていく。辿り着いたのは、医務室。派遣医も出払ってしまい、そこには誰もいなかった。

エリックはアランの背を押し先に医務室へ入れてしまうと、ドアを閉め、後ろ手にカチャリと鍵をかけた。その小さな音に不穏なものを感じアランが振り返ると、いきなり逞しい腕に抱き込まれた。

「んっ…!」

頭をしっかり押さえこまれ、激しく口内を愛撫される。その唐突さに数瞬アランはもがいたが、エリックの巧みな舌技の前には、無駄な抵抗だった。一見荒々しいが、丹念に余す所なくエリックの舌がなぞっていく。角度を変える度に漏れるアランの吐息が、切なげに震えた。

「ふぁ…エ、リ…んっ…」

エリックは、アランの腰に回していた掌に力を込めた。アランが、自力で立っていられないほど感じているからだ。

「あ…」

そのすっかり力の抜けたアランの身体を軽々と抱え上げると、エリックは医務室のベッドに座った。腕の中のアランを向い合せに膝の上に乗せ、スーツのボタンを外し始める。

「あっ、やっ、こんな所で…」

すでに懐柔されてしまった身体には力が入らないが、アランが身じろいで拒む。だがエリックは、ワイシャツのボタンも外しながら確信犯的に笑んだ。

「アラン。『姫始め』って知ってるか?」

「え? ヒメ…?」

「新年初めて、おっぱじめる事だ」

言うと、下着ごとアランのズボンを一気にはぎ取ってしまう。

「やっ…!」

アランは羞恥に身悶えたが、素肌の尻に当たったスーツの布越しに感じるエリック自身の硬度が、もう後戻りはきかないと物語っていた。

「何事も早い方が良い。我慢は健康に悪りぃ。そうだろ?」

「エリック…!」

シャンパンの味のするアランの首筋を舐め上げながら、エリックは含み笑った。

「ニューイヤーに乾杯だ」

End.


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