Rose branches

□Rose branches -30
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 馬から降りると、フィップスも馬を止め、手を翳しながら駆け寄ってきた。

「グレイ」
「来るなって、言ったのに」
「ずぶ濡れじゃないか」

 上着の中に入れていたタオルを取り出し、小さな頭を覆ってやる。
 
 くっきりとした視界、見慣れたフィップスの顔。人肌に温められたタオルが睫毛を拭い、冷たくなった頬を包む。

(フィップスの、匂いがする)

 グレイは思わず、心配そうに自分の顔を覗き込んでいるフィップスの頬を掴んだ。力強く引き寄せ、がむしゃらに何度も口付ける。

「ん、っ…、は…、よせ…」
「来たら、ただじゃおかないって言ったじゃん」
「それは…んっ…はぁっ…」

 再び眼前に垂れ込める雨に邪魔されまいとするかのように、唇を貪る。舌に染み込む雨に、溺れる気がした。





「風邪を引いてないか?」
「だから、そんなにひ弱じゃないってば」

 バスで充分に温まった身体は、先程までと打って変わって軽々としていた。ただ下腹部の一点だけが、熱を集めて重たげな首をもたげている。

 フィップスは、はだけたバスローブの下でうごめくそれをちらりと見、顔を赤らめて視線を逸らした。

「ね?元気でしょ」
「…っ」
「何で、追いかけて来たの」
「お前が…」

 女に会いに行っていると思った、とは言えず、口ごもる。

「何?」
「いや…」
「心配だから?ひよこの癖に、ボクのこと心配するわけ?」

 そう言ってバスローブを脱ぎ、赤い天鵞絨の張られた椅子に放り投げる。できないとわかっている抵抗を一応して見せるフィップスも容赦なく裸にし、ナイトテーブルの抽斗から小さな瓶を取り出す。

 潤滑油だろうか。
 フィップスの前でグレイはそれを手に取り、勃ち上がっている自分自身に塗って手招きした。

「舐めて」

 言われるがままに、それを咥える。グレイが塗ったものは、初めて味わう微かな苦味と甘味を口の中に広がらせた。

「もっと奥まで、咥えて」
「ん、むっ、んんっ…」

 フィップスにそれをさせながら、白い背中を撫で、いじらしく動く双丘を見下ろす。

「ん、ぷはっ…グレイ、何を、塗ったんだ」
「ん…?媚薬だよ」
「なっ…」
「ただじゃおかないって、言ったでしょ?」

 もう一度フィップスの口に自分自身を押し込み、腰をくねらせ、突き上げる。

「ん、ぐっ、んんっ…」

 臀部の動きが、少しずつ大胆になってゆく。グレイの見ている前で、フィップスは腰を前後に動かし、涎を零した。

「欲しいの?」
「んんっ、ぐっ…」
「欲しくてたまらないんでしょ?そんなにお尻、動かして」

 温かい口腔から、糸を引くそれを抜き出す。フィップスに枕のほうを向かせ、もう一度瓶の中身を擦り込む。

(……っ)

 鈴口から自分の中にも、媚薬が流れ込んできたらしかった。自分だけの欲ではない何かで身体が突き動かされているような、ぬるい靄のなかにいるような、そんな心地がした。

 秘部を性急に愛撫し、自分を沈める。

「…うっ…おおっ…」

 聞いたこともないような悦喜の声を漏らす恋人に満足し、その前方に手を触れてやる。

「うわっ…、びちょびちょじゃん。ふ…もう出るんじゃないの?フィップス」
「はぁっ、ああ、グレイ、くっ…」

 手を離し、両手で逞しい肩を抱いて激しく突き上げる。
 揺れるフィップス自身の先端から粘液が溢れ、幾筋もシーツに染み込む。

「う、あ、おおっ…グレイ、…頼む、…っ、支えて、くれ…ああっ」
「何を?」
「…を、うっ…」
「え?なぁに?」

 愉快そうに笑うグレイも、いつもより息が荒い。

「俺の…をっ」
「何で?ソレ…触ったら、すぐいっちゃうでしょ?」
「お前が…、揺れ…っ、激し…、たまらん…っ」

 グレイが深く突き立てるたびに、自分自身が激しく振れて熱の行き場を求めた。

 遠退いては引き戻される意識が、最後の岸辺で、快楽の奔流に飲まれていった。




「…お前にも、媚薬が効いてたのか?」
「…かも…。何で?」
「いつもより、…激しかったぞ」
「よかったって、コト?」
「それは…」

 頭が二つで体が一つの鳥のように、身も心も寄せ合った二人のどちらかが毒をあおれば、どちらともに作用するのだ。

「よかったんでしょ?フィップス」
「…お前も、だろう」
「さぁね…?」

 お互いに感じていただろう快楽を、まどろみの中で追う。

 雨はまだ降っているのだろうか。自分のそれと同調する穏やかな鼓動だけが、耳に届いていた。



END

<後書きがあります…!>
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