Rose branches

□Rose branches -36
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 真っ白なベッドに腰かけ、裸の身体を目の前に立たせる。

「…っ」
「…何だ」
「…いえ」
「恥ずかしいわけでは…ないんだろう」
「…そう、見えますか?」
「堂々と、こんなに…なってる」

 腰から膝にかけて指を下ろすと、セバスチャンくすぐったそうに口元を歪め、僅かに横を向いた。

 掌を広げ、今度は両手で引き締まった大腿を撫でる。

 右手を取って、甲から肘に掌を滑らせる。

 その手が動いて、シエルの左頬に纏わり付く。

 待ち切れない、と。

 その指が、黒く冷たい爪が、訴えていた。

 シエルは立ち上がって、片手で両肩から鎖骨、首、顎の下をゆっくりと撫でた。

 少し近付いた瞬間、肌にセバスチャンのそれが触れ、はっと腰を引く。

「今日は随分、焦らすのですね?」
「…、焦らしているわけじゃ、ない」
「それでは…、私の身体の、何を探しておられるのですか?」

 口ごもった言葉を掬いとろうとするかのように、欲しくてたまらなかった唇を奪う。

「ん…っ」

 忽ち生まれた感覚の波が身体の中でうねり、弱い部分を跳ね上げさせる。

「っ…、や…だ」
「何が、嫌なのです」

 セバスチャンはベッドの上に華奢な身体を押し付け、夜着の上からその場所を押さえた。耳元で囁かれる言葉は、言葉の形になる前から興奮を導いた。

「恥ずかしい、わけではないのでしょう?」
「…っ」
「こんなに、ほら…私のほうを向いて下さっているではありませんか?」
「ん…あっ…」

 夜着の裾を捲って四つん這いにさせ、柔らかな窪みに指を当てる。

 私を焦らした、罰ですよ、と、意地悪を言う代わりに。

 小さな身体を隅々まで愛撫しながらも、セバスチャンはなかなかシエルの中に入り込もうとしなかった。

「坊ちゃん…」
「ん、はぁ、ああっ…、な…ん…、んんっ」
「……」
「セバスチャン、早…く」
「早く…何です?」
「そ…、ん…っ」

 もっと欲しい、そう言って身体が繋がり、その瞳に見つめられればきっとまた。

(同じ場所に、さらわれてゆく…)

 そのまま閉じ込められてしまいそうな、赤い瞳の中。その永遠。

「…欲、しい」
「イエス…マイロード」
「ん…っ、目…」
「目を…?何です?」
「閉じ…て」
「恥ずかしい、のですか?」
「ち…が…っ」

 永遠のその先に、行くためには。

「はぁ…っ、お前が…、下に…」
「おや…珍しいですね」

 目を閉じたセバスチャンに跨がり、シエルは透明な息を漏らした。

 黒い腕の中でも、赤い瞳の中でもない場所。

「ん…はぁ、ああっ…」

 自分の欲しいところにその固さを宛てがい、普段とは違う快楽に喘ぐ。

(いつもと、違う…)

「セバ…スチャン」
「……」

 弾かれたように開いた瞼、射抜く視線。

「ああっ…は…あ、ああんっ…」

 気圧されまいと、懸命に腰を動かしながら、その瞳を見つめ返す。

 揺れる視線を交えながら、二人は夜の奥に辿り着こうとしていた。

「…はぁ…、ああ…」

 鼓動を、その愛しいものを湧かせる音を聞きながら、シエルはいつもの場所より、遠い場所に来たのを感じていた。







 暗がりの中で、白い肌と赤い瞳が標のように浮かび上がっていた。

 先程と同じように、熱の引いた手で肩から鎖骨、首、顎の下をなぞる。

「ふ…“竜の逆鱗”でも、探しているのですか?」

 八十一枚の竜の鱗には、一枚だけ、触れてはいけないものがあるという。

「お前には…、弱点とか、苦手な場所は、ないのか」
「さあ…どこでしょうねぇ?」

 唇を尖らせて、その瞳を睨む。

 と、セバスチャンはどきりとしたように視線を泳がせ、黒い睫毛を伏せた。

(…あ)

 シエルは満足したように頬を緩め、布団に潜り込んだ。

「流石のお前でも、目は弱点かもしれないな…?」
「……」
「ふ…、おやすみ」
「…おやすみなさいませ」

 セバスチャンは裸の胸にシエルを抱いて、可笑しそうに口元を歪めた。

 その瞼の開かれる朝が、待ち遠しかった。


(目は目でも…私の目ではありませんよ。弱点、は…)


END


(2012/4/7/午後 UP)

お粗末様でございました…orz
辰年ネタを考える中で、できた小話でありました…。

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