Rose branches
□Rose branches -01
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昨日まで、自分の一生は結局、手に入らないものへの希求に押し潰されて終わるのだろうかと思っていた。
届かない月のように。
手に入らないことが当たり前になり、いつか慣れてしまう。冷たい距離に焦れたような想いを感じていた。
そう、昨日までは。
目が覚めると、ロナルドはもういなかった。
ベッドには温もりの代わりに不快な湿気が残っており、窓からの風が寒々と吹き込んでいた。
喉が渇いている。
頭が重い。
ロナルドは、いない。
まずどの空虚を埋めるべきかといえば、一つしかなかった。
ウィリアムは指先を舐めると、腫れ上がるほどの愛撫を受けた秘部に、そっと手を伸ばした。
「先輩って、欲求不満なんじゃないっスか?」
魂の回収を終えたあと、ロナルドは遅くまで残業していたウィリアムにそう言った。
「何を…」
お見通しですよ、そんな口調だった。
ウィリアムは思わず取り落としそうになったファイルを押さえ、仰々しく音を立てながら揃えた。
「何を言っているのですか!」
「ムキになって否定するとこが、怪しいっス!俺、性的な欲求不満とは言ってないんですけどね」
思わずロナルドのほうを振り返り、睨み付ける。
「彼氏さんと、うまくいってないんスか?」
ロナルドはウィリアムの視線にも怯まず、言葉を続けた。
ウィリアムが年上の男性と交際していることは、周知の事実だった。相手は優秀だった死神派遣協会のOBであり、エリート同士の恋愛としてそれは尊敬を込めて噂されていた。もう長く付き合っており、心穏やかに時を過ごせる存在だった。が、ウィリアムは相手に物足りなさを感じ始めていた。
紳士的だが、淡泊。
ウィリアムから誘わなければそれをしようとしない日も多い。彼を愛していたが、愛しているがために飢えは蓄積されていった。
それが誰かに気付かれるほどになっていようとは、思いもしなかったのだが。
「…うまくいっていますよ」
「じゃあ、これは?」
長い指が、整頓されたデスクにあるものを叩きつけた―ウィリアムの顔からさっと血の気が引いた―それは彼が苦心して手に入れ、協会の機器で見ようと思っていたDVDだった。
『地獄の男優攻め!イラマチオとぶっかけでザーメンまみれの身体を容赦なく責める二時間半!』
「そ…それは…」
「こーゆー時、言い訳しても見苦しいだけっスよ?素直になりましょ?」
ロナルドは屈託なく笑い、再びそれを手に取った。
「男優三十人の精液大放出で最後は失神、ねぇ…確かに彼氏さん、失神するまでヤるってタイプじゃなさそうっスもんね」
「だっ…」
「こーゆーことしたいんなら、してあげますよ?あ、ただし、三十人じゃなくて俺一人で、ですけどね」
「ロ…ロナルド・ノックス、一体何を…」
「ここまで来て、何ビビッてるんスか」
ラブホテルの一室で、ウィリアムは半分乱れた服のまま壁際に追い詰められていた。