Rose branches
□Rose branches -14
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「遊んで、にゃあっ」
半分猫のグレイはベッドの上で試行錯誤していた。
二人が暮らしている部屋には、もうすっかり冬が訪れていた。フランドル積みの煉瓦で出来た暖炉の前の赤い火よけ、うっかり石炭の黒い跡をつけてしまったウールのガウン、青紫の花を咲かせたプリムラ・オブコニカの鉢。台所には、前の晩に煮込んでおいたビーフシチューの冷たい鍋が鎮座している。
「んん…」
フィップスが返事をしたのは、エキュメされる前のフォン・ド・ヴォのような不透明な夢の国からである。
頬っぺたをぐりぐりしても、胸板を小さな手でパンチしても、目を覚ます気配はない。
「にゃん…」
疲れているのだ、今日は休みなのだから寝かせてやろう。
一度はそう思ったグレイだったが、休みの日ということは、遊んでもらえる時間が長いということでもあるのだ。やはり、目を覚ましてほしかった。
何かフィップスを目覚めさせそうなもの、と辺りを見回す。
本来自分が寝ているはずの白い籠の横に、少し前に飽きてしまった玩具があった。グレイは長い柄の先に作りものの毛が付いているそれを掴むと、急いでベッドの上に戻った。
毛の先で、一生懸命顎の下をくすぐる。
「…ん…?」
「にゃあ、フィップス、起きた?」
一度目を開けたフィップスは、しかし再び、眠りの砂に引き込まれてしまった。
「ボクがこんなに、起こしてるのに…!」
どこか悪いのか、と額を当ててみるが、そういうわけではないらしい。夢の国の彼方から、弱々しく頭を撫でられる。
グレイはついに、フィップスを起こすのを諦めた。
(でも…)
目を覚ました時のために‘準備’をしておこう。
そう思い立ち、いそいそと服を脱ぐ。
一人で入るバスルームは広く、白い天井がいつもより高く思えた。丁寧に身体を洗い、髪や尻尾を念入りに乾かしてベッドの中に潜り込む。
「…?」
ようやく夢の中から現に浮上した意識を、石鹸の香りがざわめかせる。柔らかい感触、小春日和の陽光のような温もり。
「…グレイ…?シャワー、浴びたのか?」
うとうとしていたグレイは、フィップスの声に白い耳を動かし、大きな瞳を向けた。
「ちゃんと洗えた、にゃあ」
「そうか」
確かめるように、寝間着の中に手を滑り込ませる。尻尾の下を撫でると、グレイは目を閉じて小さな吐息を漏らした。
身体を起こして、ベッドの脇に目を遣る。木製の時計は9時を差していた。
「ああ…、すまない。お腹がすいただろう」
「待って」
グレイはフィップスの胸元に爪を当てて、首を振った。
「すいてるけど、先に…」
「…」
寝間着を脱がせ、石鹸の香りのする白い身体に口付ける。
よく食べる癖に細い脚は軽々と持ち上がり、その奥を晒した。
ピンク色の秘部に触れると、指の先はすっとその奥に引き込まれた。
「…っ」
恥ずかしそうに口元に手を翳して、零れてしまう声を抑える。が、その場所からつたう透明な粘液は、抑えようもない。
「あっ…にゃあっ…」
指を抜いて、優しく舌を這わせる。
顎に当たる尻尾の震えが愛おしい。時折舌の動きを変えながら愛撫を続けると、既に立ち上がっていたそれは更に固くなり、僅かに動いた。
「フィップス…そ…んな…っ」
「舐められるのは、好きなんだろう?」
「ん…あっ…フィップスの…そこに…ああっ…」
グレイが頂点に達する直前に顔を離し、先程からズボンの中で重みを増している自分をあらわにして、避妊具をはめる。
布団を持ち上げ自分とグレイを覆うと、グレイは嬉しそうにフィップスの首に腕を回した。
「寒くないか」
「う…ん…」
「力、抜いて…」
「…っ、はぁ…あっ…ああっ…」
熱い男根を押し込まれ、瞳が銀色に濡れて光った。
フィップスは身体を沈めながら、左手で優しく目元を拭ってやった。
「グレイ…」
「にゃ…ん…あっ…フィップス…あああっ…!」
下腹部に感じた、精液の迸り。
腰に手を当てて回転させ、白い背中を抱きしめる。
「あああっ…もうっ…!…んっ…あっ…駄目…!また、出る…にゃあ!」
繰り返し突き上げられ、グレイは雪のようにつややかな髪を振り乱して悶えた。
「フィップス、フィップス…ああっ…!」
†
それから、一週間後の朝。
目を覚ましたとき、フィップスはまだ眠っていた。
が、先に一度起きたのか、それとも自分が眠ったのが先だったのか。
「にゃあ…」
枕元に置かれた、大きな緑と赤の靴下。
(わ…ぁ、そうだ、今日は…クリスマスなんだ)
グレイは目を輝かせて、靴下の中を覗き込んだ。
「…んん…」
金色のフォン・ド・ヴォライユのような日差しが、瞼の向こうを明るく照らしていた。
開けた目に飛び込む、自分が編んだ灰色のマフラーと手袋。
大きな靴下の中から顔を出して幸せそうに眠っているグレイは、そのプレゼントを身に着け、しっかりと握りしめていた。
END
(2011/12/25)