Rose branches

□Rose branches -22
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 そう言いながら、ジョンの上着に手をかける。胸板を何度も、服の上からゆっくりとなぞる。

 ジョンは少し戸惑った。いつも、この行為のときにはフィップスがいるはずである。

「フィップスがいないのに…」
「いいじゃない、たまには」

 ただ、楽しみたいのだと。
 いたずらなその声からは、ジョンに心を移したのだとか、本当は好きなのだとか、そんなニュアンスは微塵も感じられず、ジョンは何故か安堵した。

 安堵した後、泣きそうな程の寂しさに襲われた。

 性急にボタンを外すグレイの手はそのままに、自分でゴーグルを取り、グレイの身体をソファに押し付けてベルトに手をかける。

「なぁに?今日は、ジョンがしてくれるの?」

 嬉しそうに自分で下着をずらし、ジョンを受け入れる。

「ん、あ、あぁ…っん、っふ…。口でされるの、息が…くすぐった…い…あっ…、はぁ…っ」

 するのは初めてだったが、こつは心得ていた。
 グレイの口の動きを思い出しながら一心に舌を動かすと、頬の内側に、固さの増したそれが押し当てられるのを感じた。

「っ…」
「んっ…止めちゃうの?ボク、イケそうだったんだケド」
「…お前の、射精するところが見たいから」

 いつも、自分は見ているのだ。
 フィップスに愛され、快楽を吐き出すグレイ自身を。
 その姿を今日は、独り占めしたい。

「いいよ」

 グレイはにっこり笑うと、ジョンの肩に手をかけて上半身を起こした。

「はぁ、あぁん、あ…ん、ん…んっ」

 吐息が耳に届く場所で喘ぎながら、手を動かして自涜して見せる。

「あぁ、ジョン、ボク…あっ…ああっ…」

 握っていたそれを離し、先走りに濡れた指を身体の奥に当てる。

「あん、ああ、はっ…あ、もう、いく、いくぅ…っ!」

 肩を掴む手に力が込められた瞬間、ジョンの見ている前でその先端から白い液体が溢れた。ジョンは二、三度に分けて湧出するそれを拭い、グレイの中に塗り付けた。

「…っ、は…冷た…」

 初めて触れたその場所は熱く、滑らかで、指の侵入を素直に受け入れていた。

「んっ…んんっ…、ねぇ、ボク、欲しい…」
「…」
「ジョンが…、あっ…、さっきの答え、まだ聞いてないよ…ボクのこと、好き?…んっ…」

 ジョンは黙って、小さな手でグレイの秘部を犯し続けた。そこは既に充分緩んでおり、また、ジョン自身もそれが出来る状態になっていた。

 緘黙しているジョンに焦れたように、グレイの手がズボンの前に触れる。ジョンはその手を払い、それを引きずり出してグレイの口に押し当てた。

「ん…っ、ぷはっ…ジョン、何で、こっちに…」
「喋るな」
「んぐっ…!んんっ…」

 白銀の髪を掴み、ひたすら打ち付ける。

 やがて絶頂に達すると、グレイは赤い唇の端を伝う液体を拭って、荒い息を吐いた。そして大きな瞳で、ジョンを睨んだ。

「…意気地なし」
「……」
「でも、今の乱暴なの、良かったよ」

 茫然としているジョンの前で、グレイはさっさと服を直し、冷めたアールグレイを一口飲んで出て行ってしまった。

 部屋の中は暖かいのに、周りの空気だけが急に、冷たくなったように思った。

(意気地なし…?…違う…)

 ソファに残ったしみを見つめる。
 ふと、昔聞いた『ソドムの林檎』が脳裏をよぎった。

 目の前にあるのに、手を伸ばすと煙のように消えてしまう、背徳の都の果実。

(私は、守ったのだ…)

 何を守ったのか。
 自分を、か。

 それならばやはり、意気地なしということになってしまうのだろうか。

(違う…)

 目を閉じて、煙のように消えてしまったグレイの面影を追った。
 それでも火のないところに煙は立つまい―そう考える重い肺腑の底から、押し出されるように嗚咽が込み上げた。


END


<後書きがあります…!>
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