ReBirth
□ReBirth -04
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コットンパールのボタンがあしらわれた純白のボタン・ブーツは、1867年のパリ万博で注目を浴びた試作品を改良したもので、15cmほどあった丈は少し短くされ、つま先とヒールにピンクのゼラニウムが刺繍されていた。
金曜の夜、着飾った人々のごった返すエクセター商品取引所周辺では立ち止まることなど許されず、まして通りの向こうにグレイとジョンを待たせているところでもあったので、フィップスは飾り窓の奥にちらとそれを見ただけだった。それでも、その日からどうしても白いブーツのことが頭から離れなくなった。
結婚式用であることは、わかっている。それが花嫁、女性用であることも。
豪奢な闇を包む黒真珠や、鋭い緊張感を湛えるシルバーも良いが、コットンパールの優美さは、名門貴族の淑女、その純潔を思わせる。その連想はそのまま、グレイに繋がった。
「はっ…」
黒光りする鞍を乗せた白馬が、目の前で土煙をあげて踏みとどまる。
フィップスは目を細めて、日課である乗馬訓練を終えたグレイを見上げた。
乗馬用のきつい黒のブーツが、滑らかな曲線を描いている。
「ねぇ、近いうちにまた、遠乗りでもしようよ。このところ時間がないけど…もうすぐワインのお祭りもあるし」
「ああ」
秋の陽が揺らぐ大理石の回廊を抜け、着替えの間に入る。このところグレイの着替えは、使用人を呼ばずフィップスが手伝うことが多かった。二人きりなら機密に触れることも話せ、気を遣わずにいられた。
グレイが脱いだブーツを受け取り、形が損なわれないよう詰め物をしてシューズクロークに仕舞う。
脳裏をまた、くるぶしまでの白いボタン・ブーツが過ぎる。フィップスは気がつかれないよう、ため息を吐いた。
一体何故、急に靴のことなど気になり始めたのだろうか?
グレイの賛美すべき点は、細い脚の他にいくらもあった。柔らかな髪、大きな潤んだ瞳、穢れのない白い肌、機敏で繊細な肩…。
だが、彼の脚は美しいのみならず、強靭で、その権力を象徴するかのように思えた。堂々と高い靴音を響かせて階段を上るとき、誰よりも速く駆け抜け闇を血に染めるとき、長いレイピアの鞘に護られて、その脚はどこまでも高潔だった。
グレイが剣ならば、自分は鞘だと常々フィップスは思っている。鞘、受け止めるもの、靴。…