ReBirth

□ReBirth -04
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 裁縫は得意だが、靴は作ったことがない。靴の製作には、専用の木型やミシンなどが必要である。
 煩悶のうちに数日を過ごして、フィップスは偶然、王室御用達の衣装業者が宮殿に来ているのに出くわした。王太子の注文したいくつかのハットを納めたばかりの彼は、喜んでフィップスの注文を聞いた。

「潜入捜査用ですか?いいですとも、あの方のサイズは記録してありますし。F.ピネ社のよりも、もっと華やかなのを作って差し上げますよ」

 一週間程して、それは届けられた。期待と怖れの入り混じった高揚を感じながら、フィップスはその箱を開けた。





「…バレンタインデーの、プレゼントだ」

 フィップスが捧げたバスケットには、ありとあらゆるチョコレートを使った菓子が詰められていた。

 チョコレートのシフォンケーキ、キャラメルとチョコレートのムース、ボンボニエールに入れられた様々な色のトリュフ、粉糖をふんだんにまぶしたミュスカディーヌ。「サンキュー」と目を輝かせてトリュフを口に入れるグレイに、少し躊躇いながら、もう一つの贈り物を差し出す。サテンの大きなリボンが飾られた、丸い箱である。

「チョコレートが気に入ったなら…一つ頼みがあるんだが」
「なぁに?」

 覗き込むグレイの前で、リボンを解く。入浴したばかりのグレイは、白いガウンを一枚着たきりで、香油のいい香りを漂わせていた。
 解きながら必死に、自分の鼓動を落ち着けようとする。

「これを…履いてみてくれないか」

 グレイはびっくりして、しばらく瞬きを繰り返した。

「え…何で?」
「いや、その…」

 大きな瞳の問いかけの前に、用意していた言い訳は全てかき消えてしまい、額に滲む汗だけが残る。

「もしかして、プロポーズ?」
「…!」
「だって…これって結婚式用だよね」

 フィップスの手の中にあるボタン・ブーツは、ふくよかな白さを湛えて部屋中の光を集めていた。光沢のある白い絹が金の糸で縫い付けられ、コットンパールのボタンがきゅっと一列に留められている。縁には二重の細いレースがさざ波のように並び、つま先とヒールには、アニリンで染めた色鮮やかな糸でゼラニウムの刺繍が施されている。レースの至るところで揺れるヴェネツィアンビーズは、さながら花を濡らす朝露のようだった。

「あ、その…」
「ふうん…なんか、よく出来てるじゃん?フィップスが作ったの?」

 大きな瞳に、ブーツと、強張った表情のフィップスが交互に映される。

「いや…」
「じゃあ、履かない」




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