ReBirth

□ReBirth -04
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「えっ」

 思わずボタン・ブーツを取り落としそうになりながら、フィップスはグレイを見つめた。

「ボクにくれるって言うなら、フィップスの手で、何かしてよ」
「何か…って」
「そうだな…例えば、ボクの名前を入れるとか」
「あ、ああ…そんなことなら、お安い御用だ」

 グレイの気持ちを掴み損ねたまま、いつも持ち歩いている針と糸を取り出し、ヒールのゼラニウムの上にグレイの名前を縫い取る。

「これで、いいか」
「…うん」

 グレイは嫌がりもせず、フィップスがボタンを開けたブーツにつま先を差し入れた。震える手で、コットンパールのボタンを一つひとつ留めてゆく。逞しい指に摘まれるそれの感触は、淫靡だった。金糸を纏う白い絹が、自分の分身のように、グレイの裸の足を包んでいくように思われた。

「…ピッタリだ。似合う?」
「よく似合ってる」
「で…どうしてこれをボクに履かせたかったの?」

 再び、言葉に詰まり、頬を紅潮させる。

 グレイはじれったそうに、チョコレートで出来たボンボニエールの端を折って口に入れると、指を舐めた。

「わかってるから、フィップスがボクのこと好きなのは」
「なっ…」
「だって、いつもボクに優しいし、ベッタリじゃん。…フィップスだけだよ、そんなの」
「…」
「ボクなしでも充分やってけるのに…」

 グレイはバスケットの向こうに視線を流し、一つひとつを回想するように言った。身分の高い彼にとって、それを目当てとしない接近者はそんなにも稀なのかと、フィップスは改めて思った。

「小さい頃から一緒だったし、男同士だけど別に…。ボク、女の子に興味ないしね」

 そう言って、フィップスの頸に両腕を回す。ローズマリーの風が流れ、重ねた唇から、甘いチョコレートが香る。

「はっきり言ってよ」
「…す、好きだ」
「時間かかりすぎ」
「…すまん」
「ボクも、フィップスが好き」

 グレイはずっと、待っていたのだろうか。気がついてからずっと、自分が行動を起こすのを。

「それで、何で、靴なの?」
「…踏んでくれ」

 自分でも驚くほど、言葉がすらすらと出、言ってしまったあとで、その内容に愕然とする。




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