ReBirth

□ReBirth -08
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「ダメだ!」

 白鳥宮に響き渡る『らしからぬ』声に、何事にも無関心なバイオレットと鍛錬に勤しんでいたグリーンヒルも思わず顔を上げた。

「前例がないってだけだろ?寮を移動させなくってもいい、青寮から『寮弟の時間』だけ赤寮に来てもらえばいいんだから」

 ブルーアー、バイオレット、グリーンヒル、クレイトンだけを白鳥宮に集め、レドモンドが切り出した話はこうだった−『シエル・ファントムハイヴを自分の寮弟として譲り受けたい』。

「もちろん、それなりの謝礼はするさ」
「じ、人身売買じゃないんだぞ!」
「お前の寮弟じゃないだろ?ロレンス。クレイトン、お前は異存あるか?」
「い、いえ、私はー…」
「ほら」

 ブルーアーは激昂して立ち上がると、レドモンドに詰め寄った。

「クレイトンが上級生であるお前に刃向かうはずがないだろう!だから、俺が代わりに抗議してるんだ!」
「やれやれ、それは下級生思いだな」

 ブルーアーの反対なぞ予想していたとでも言うかのように、レドモンドは動じなかった。

「…あの、自分は異存があるわけではないのですが…ただ別の寮から通って寮弟の仕事をこなすのは大変なのでは?いえ、距離はさほどでもないですが、普通他寮にはあまり出入りしないものですし…」
「俺は前から寮生同士の対抗意識が強すぎるんじゃないかと思ってたんだよ。P4はこうやって集まってお茶飲んでるのに、寮生同士は行き来もしないなんて、閉鎖的だろ?だから、他寮の生徒を寮弟にする習慣が出来ても、いいんじゃないかと考えてるんだ」
「…確かに、各寮がもっとオープンになれば、生徒に起きる問題も発見しやすい」
「紫寮は絶対鎖国を貫くよ」

 ティーカップの周りに並べた妖しい色のグラス達から目を離さないまま、バイオレットが呟いた。

「変わり者が変わり者だけで集まって固まってるっていうのも、わからない話だな。そのうち新種が現れて、外に出て行きたがるかもしれないぜ」
「…」
「グリーンヒル、お前はどうだ?緑寮の下級生は満足にボタン付けも出来ない奴ばっかりだって愚痴、他の緑寮生から聞いたことがあるぞ」
「下手でも構わん、一生懸命することに意義がある。だが寮をオープンにすることには、俺も賛成だ」
「俺は反対だ!」

 ブルーアーが一歩も譲らないという顔で叫んだ。

「人の寮弟を横取りするような真似をして、恥ずかしくないのか!」

 ブルーアーの脳裏に、青寮から気に入った生徒を次々引き抜いてはべらせるレドモンドの姿が浮かぶ。ブルーアーは以前から、この友人の、権力でわがままを貫く性格が気になっていた。無論、爵位の力、貴族の存在とはそうしたものかもしれないが、それがレドモンドの人格形成に良くない影響を与えている−そう考えると、直してやらねばという気になるのだった。

「わかった」

 レドモンドは少し真剣な目をして、ソファに深く座り直した。ナイルブルーのシルクのカバーがかけられたクッションの上で、金色の髪が光をはね返しさらさらと揺れた。

「じゃあ一日だけ、シエル・ファントムハイヴを借りたい。これは実験だ。その上で他寮の生徒を寮弟にすることが実現可能かどうか、また話し合おうじゃないか」
「…」

 レドモンドは頭脳派のブルーアーに負けず劣らず、チェスが得意だった。もしかするとこれが、彼が初めから想定していた落としどころだったのかもしれない−チェスでうまく相手の罠にはめられたときのように、ブルーアーは腹立たしげな表情を浮かべた。しかし、これ以上の譲歩を引き出すのは、難しそうだった。

「わかった。シエル・ファントムハイヴが一日だけレドモンドの寮弟になることに、賛成する」

 グリーンヒルとバイオレットも、無言で頷く。
 クレイトンは心配そうな顔で、蒼ざめたブルーアーと勝ち誇った笑みを浮かべているレドモンドを見比べていた。

<続きます…!>


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