BLUE in the nest

□BLUE in the nest -01
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 イーストエンドで若い女性の遺体が『二つの包み』の中から発見されたのは、1875年の夏である。
 犯人は遺体発見と同時に逮捕、同年冬にニューゲート監獄で死刑に処せられた。
 忌まわしいバラバラ殺人から約13年後、更に猟奇的な連続殺人事件がホワイトチャペル地区を血で染める。医師、若い弁護士など幾人かの人物が犯人の『ジャック・ザ・リッパー』と目され取り調べを受けたが、いずれも逮捕には結び付かなかった。
 惨劇は続き、こびりついた血の上に新たな血が流れた。

―ロンドンの夜霧は深く、
―血の匂いは未だ消えず。

 そんな貧民街の悪夢をよそに、ウエストエンドの子爵邸では盛大なパーティーが催されていた。

「わがままなお姫様だね…駒鳥」

 鳥肌を立てるシエルの腰を、ドルイット子爵は慣れた手つきでひき寄せる。

 マダム・レッドの姪だという可憐な「少女」が、まさかViscountより上のEarlであり、それも裏社会を見張る女王の番犬だなどとは知る由もない。

「もっと楽しいことを」

 ピンク色のドレスの上から、幼い肢体を撫でる。

「ご所望かい?」
「え、ええ、子爵はご存知?楽しいこと…」

 これが仕事でなかったら、その場で口付けを受けた手袋を外し、金髪の絞殺死体をつくり出していたかもしれない。

 シエルは変装のための数々の努力を思い、花飾りの陰で、怒りを押し殺した。



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