BLUE in the nest
□BLUE in the nest -09
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「はぁ…」
シエルは大きくため息を吐き、壁の時計を見た。十八世紀の風景の横で、金色の針がゆっくりと動いている。
(夕食の時間すら、まだまだ先だ)
セバスチャンはどこにいるのだろう。厨房か、標本温室か。この屋敷は、執事を一人探すにはいささか広すぎた。偶然を装って逢うのは、なおのこと困難だった。
(だからって…わざわざ呼ぶのも癪だな)
机の上のベルを睨む。
いっそこいつが、自分で鳴り出せばいいのに。シエルはつくづくと眺め、それを高いところから落としてみることを考えた。が、やめてしまった。そのベルは、セバスチャンが仕え始めたばかりのときにどこからか持って来たもので、音が曇らないようにときちんと磨き込まれていた。粗末に扱うのは、躊躇われたのである。
(飲み物でも持って来させようか)
それなら不自然ではない。
しかし、そのあとは?
セバスチャンは、給仕が終われば下がってしまうだろう。ただ呼んだところで、この―この身体の疼きを沈める行為を、始められるわけではない。
(…誘うのは、みっともない)
貧民街の娼婦のように媚びる自分が、愛されるとは思えなかった。まだ日の沈まぬうちから、抱いてくれなどとは言えなかった。
だが、思春期の身体は驚くほどの怒涛を毎日生み出している。夜となく昼となく、潮が満ち、溢れそうになる。
シエルは目を閉じ、こめかみを押さえた。
† † †