BLUE in the nest
□BLUE in the nest -11
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家具が詰め込まれた部屋の中で、僕は随分長い間待たされていた。喪服の未亡人が、僕の身元に関する書類をめくっている。
はやく終わらせてくれ。身元なら、しっかりしているはずだ。僕はファントムハイヴ家の―…。
ファントムハイヴ家の?
(そうだ、屋敷は焼けたんだ)
左手の親指を見る。
力を込めればすぐに形が歪んでしまいそうな安物の指輪が、紋章の代わりに鈍く光っていた。背中と掌に冷たい汗が吹き出すのを感じた。
(指輪は、どこに?)
考えたが、わからなかった。
ふと、傍の本棚に目を遣る。青い棒状の置物があった。小指ほどの太さで、刺のようなものがいくつかついていた。
(何だ…?変な形…)
しばらく手に取って眺めたのち、それが何を型取ったものか唐突に気が付いた。
慌てて、それを元あった場所に戻す。
身体が少し、熱くなるのを感じた。
未亡人はようやく書類を見終わると、僕のほうに向き直った。
「いいわ。採用してあげる。記入して」
渡された紙は、自分の紹介を書くものだった。身長、体重、それから、口に出すのが躊躇われるような、いくつかの場所のサイズ。「趣味」の項目に読書、乗馬、フランス語、チェスと記入して渡すと、彼女はフンと鼻をならして棒線を引き「ゲーム」と書き直した。
† † †