BLUE in the nest

□BLUE in the nest-13.B
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† † †

 次の瞬間、ウィリアムの長い指は背後から投げられたシルバーを受け止めていた。

「セバスちゃん!」
「生憎、女になったからと言って、戦闘能力が落ちるわけではありません…よ」

 セバスチャンは立ち上がりながら言った−高く透き通った声で、華麗に、笑いながら。

「ぎゃー!!声まで女になってるう!!アタシのセバスちゃんがあぁ!!」
「フン。…グレル、行きますよ」
「あっ、まま待ってヨ、ウィル!」

 二人の死神が消えてしまうと、セバスチャンは小さくため息をついた。シエルの手が、その冷たい頬に伸ばされる。

「元に…戻るのか」
「大丈夫ですよ」

 にっこりとシエルに笑いかける。気のせいか、その笑顔はいつもより柔和に感じられた。お母様、ふとシエルは思った。

「さぁ、後片付けを致しましょう。『あの人たち』に知られると厄介ですから、タナカさん以外はしばらく暇を出すとしましょうか」
「ああ…叔母様にでも預かってもら…」

 銃を抽斗に仕舞いながら、シエルは何かを思い出し、あっという顔をした。

「…もうすぐ、僕の誕生日だ…確か、叔母様とエリザベスが来るんじゃないか!?」
「ふむ、何とかそれまでに、元の姿に戻る必要がありますね」
「…心配だ…」

 エリザベスのファンシー魂と侯爵夫人の鋭いチェックから、セバスチャンの変化を隠し通せるとは思えない。と言って追い返すこともできない。シエルは参ったという風に額を押さえ、目をつぶった。




「ウィル〜、すぐ中和剤を作ってあげまショ」
「あの本は原則として持ち出し禁止なのですよ。貴方にはこれからいろいろと書いてもらう書類があります。まずはそれを先に」
「う…。あの本、死神図書館に戻しちゃったの?」

 縮こまって瞳を潤ませるグレルを、ウィリアムはやれやれといった顔で見下ろした。眼鏡をおさえ、いつもと変わらない口調で答える。

「…こう見えても、料理は得意なんです」
「え?」
「大事なものの『レシピ』は、メモして冷蔵庫に貼っておく。主夫の基本」
「まぁ、ウィル!」

 ウィリアムが言い終わる前に、グレルは勢いよく飛びついた。冷蔵庫に貼っているかどうかは別として、中和剤の作り方は記録しているということだろう。流石、死神派遣協会管理課にこの人ありと言われたウィリアムである。抜けもソツも一切ない。何故か、とんでもない同期の尻ぬぐいを、よくさせられる気の毒な人であるものの。

「ウィル大好き!!…ゴフッ」
「…全く」

 その後のウィリアムの呟きは、聞く者のないまま暗がりに吸い込まれていった。

「…まぁ、身体が女になっただけなら、薬を使わずとも元に戻す方法はあるのですが…」



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