BLUE in the nest
□BLUE in the nest -15
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† † †
欲しそうな顔をしていると、思った。
「何故、踏み台を置いたままにしておいたか、お分かりになりますか?」
バートン伯の養護院から子供達を招いた際、シエルがチョコレートの像をつまみ食いした日のこと。
「…」
「厨房を覗いておられたでしょう。来てはいけないと申し上げているのに」
セバスチャンの指はしなやかに動き、夜着の襟を整える。
「あの時…欲しそうなお顔を、しておられましたから」
「だっ…だったら素直に、僕に出せばいいだろう。つまみ食いするように、仕向けるなんて…」
「素直?」
ボタンを留め終えた長い指が、そのまま上へ動いて、滑らかな顎を持ち上げる。
「素直…ですか」
「な…ん」
「貴方こそ…素直におなりになるべきだ。おねだりの仕方ならお教えしたのに、なかなか上手にならない坊ちゃん」
…何のことだ、離せ。そう言ってその手を払ってしまうのは簡単なはずなのに、次第に熱を帯びていく紅い瞳から、逃れられなかった。親指が下唇に微かに触れ、その弾力を遊んでいる。
「欲しかったのは、チョコレートですか?…それとも、」
見つめ合ったまま、5分くらいは経っただろうか。
「…たまには、ちゃんとしたおねだりが聞きたいものですね」
そう言うと、黒い執事は部屋を去ってしまった。シエルの頬に、薄い唇の感触を残して。
(おねだりの仕方…なんて)
ガーゼの眼帯を外し、長い睫毛に掌をあてた。長い間そのまま考えていたが、決心して立ち上がると、階下へ向かった。
廊下はしいんとしていた。音を立てないよう忍び足で歩いていたが、突然誰かに腕を掴まれ、引き寄せられた。一瞬、胸のあたたかさに目眩を覚え、その鼓動が耳の奥で響いたように思った。
「わっ…」
「こんな夜中に、一体何を?」
寄せた眉根が、シエルの返答を聞いてふっとゆるむ。
「お…ねだり、しにきた…」
「それはそれは…私の部屋へ、参りますか?」
「どこでも、いい」
セバスチャンは主人を抱き上げると、自分の部屋へ連れて行った。燭台に火をともし、ドアに鍵をかける。
夜着を脱がせ、シエルの手に自分の手袋をはめる。足には、広いレースのついた靴下。シエルの小さな足は踵までレースで覆われ、ベッドの上で蝶のように白く光った。
「さぁ…教えた通りに」
† † †