BLUE in the nest

□BLUE in the nest -17
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† † †

 到着するや否や、セバスチャンの大きな黒い身体に抱きしめられた。
 黒い身体はシエルの前でぼんやりと白くなり、紅い唇が見えたかと思うと、あとは低い体温と天井の木目ばかりが意識に流れ込んで、顕在したはずの理性を霧散させていった。

「あっ…あ…セバスチャン…」

 待ちきれなかったのか。
 問おうとして、気付いた。自分も、そうだったと。
 身体の先から溢れたものが、自分を押さえ込む滑らかな太腿との間で擦られ、くちゅくちゅと音を立てていた。

「坊ちゃん、ここが…イイのでしょう」
「待っ……やっ……」




 久々の旅行だった。
 行き先を選んだセバスチャンは、人の少なさ、牧歌的な空気を目の当たりにし、満足そうに鞄を下ろした。湖畔を縁取る草の列は金色に染まり、ブラシの毛のように並んで風を梳いていた。シエルの嫌うロンドンとは正反対の湖水地方。余暇を過ごすには最適だろう。

「随分遠くへ連れて来たな…」
「予定は、一週間分空けております。釣りでも、お昼寝でも、お好きなようにお過ごし下さい」

 椅子の上には茶色い更紗が掛けられていた。シエルはしばらくその模様を眺め、それが先程までベッドカバーの役割を果たしていたのを思い出した。ちょっと羽根を伸ばしたいと言っただけなのに、完全に普段の生活から切り離されてしまった。セバスチャンの手が、シエルの何も身につけていない白い肩を幾度も撫でた。

「お前のやることは、思い切りがいいと言うか…」

 窓から見える丘には点々と赤や黄色の葉をつけた木々が立っている。エスウェイト湖のすぐそばの囲い地では、二十頭程の羊がゆっくりと移動している。ずっと眺めていると、どれくらい時間が経ったのかわからなくなってしまいそうなほど、のんびりとした光景だった。

(もしも、時間がゆっくり流れる場所に行くことができたら。…)

 散歩したい、そう言うとセバスチャンは簡単に身繕いをさせ、エントランスまで先導した。

 外に出ると、澄んだ風が額に歓迎の口づけをしようと幾度かやってきた。それを感じたのはほんの少しの間で、気が付くと黒い身体が風上に立っている。冷たい横顔が時折雲の陰に入り、のどかな空気に似つかわしくない超然とした雰囲気を纏わらせていた。三度目に見上げたとき、‘何か?’と言いたそうな微笑みが広がった。

「何でもない。ニヤニヤするな。…」



† † †
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