BLUE in the nest

□BLUE in the nest -19
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「あ…、ああ」

 シエルは目を開け、渇いた唇から吐息を漏らした。

「お目覚めになられましたか」
「…、すまない」

 セバスチャンを抱き寄せたまま、二度寝してしまったようである。黒い肩を押しやり、目をこする。

「紅茶をいれ直して参りましょう」
「いい、注いでくれ」

 睫毛の影の下で、オッドアイが時計を探す。寝てしまったのは30分程度のようだ。ぬるくなったアールグレイは、ベルガモットの香りをかすかに強めていた。二度寝のおかげで心の中の海は満ち、穏やかに意識を持ち上げていた。

 幾分はっきりとした頭で、シエルは問いかけた。

「お前を呼ぶのは…若い人間が多いか」
「何故です」
「若者は神の審判を恐れない」
「私と契約した時点で、神とは永遠に無縁ですよ」

 シエルは頷くと、紅茶を一口飲んだ。

「神は完全なのに、何故悪魔が存在する」
「…」

 セバスチャンは珍しく、椅子に浅く腰かけて考えを巡らせた。その横顔は何処か遠くを見つめているようだった。

「私が思うに、神は完全ではないのでは?似せて創られた人間が完全ではないように」
「法王庁に報告すべき貴重な意見だな」
「もしくは、神が完全だからこそ私が存在する」
「…」

 ふと、死ぬ間際のドールの顔が目の前に現れた。あそこに神はいなかったのだろうか。

「人間も完全か」
「善と悪が揃った状態を完全と呼ぶなら。…私は完璧であっても完全であることはないのでしょうね」
「後悔しないから…?」
「イエス。そういった感情は持ち合わせておりません」

 僕は悪魔にもなれない、やはり人間か。…

 シエルはベッドから下りようと、脚を投げ出した。セバスチャンが近付き、腰を屈めて夜着のボタンに手をかける。

「人間であるからこそ、私は貴方が好きなのです」

 甘い囁きが、シエルの身体をふわりと包んだ。

「描きかけのカンバスは、今日またお使いになりますか。顔料が足りなければ、ご用意致しますが」
「…ああ…あれはもういいんだ。片付けておいてくれ」
「かしこまりました」

 …僕は描く側ではなく、見る側なのだろう。…



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