BLUE in the nest

□BLUE in the nest -31
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 その顔を見て、気付かされた。

 いつ愛し合えるかは実際のところ彼次第で、自分は常に、その時を待ち焦がれている。

 たまには、強引に事を運ぶこともあるけれど、そう毎回ではない。

 …嫌われてしまわないように。

 そして、執事としての分もわきまえなくてはならないから。

 だから、

「次の予定まで、どれくらい時間がある?」

 時計を顎でしゃくって、腰掛けたまま、自分を見下ろすその瞳の前で。

 パクン…と銀時計の蓋を開ける手が震えた。



「二時間か、それだけあれば、充分だな」
「…お召し上がりに、ならないのですか」
「後でいい」

 アフタヌーンティーの給仕をしようと、やって来たはずの部屋で、突然の誘い。
 ソファーを背に立っている自分に、シエルのほうから近付いて来る。

 ポン、と肩を押され、柔らかいクッションの上にらしくもなく座らされた。

 唇は、若いチェリーよりも弾力のある唇で塞がれる。

「どうした…?」
「…いえ、」
「お前でも、緊張すると勃たないのか?」

 ふ、と笑って黒いズボンのジッパーを下げる。

 固くなり始めていたそれは、簡単にシエルの手で外へ導かれた。

「ちゃんと、こんなになってる…んっ」

 再び唇が重ねられる。たどたどしい舌遣いは、かえって身体の芯を煽った。

「ん…」

 セバスチャンはシエルの細い首に手を回し、そっと耳を指で挟んだ。パン生地よりも手触りのよいそこが、感じる場所なのは知っている。手袋をしたままの愛撫は少し乱暴で、シエルは肩をびくんとさせた。すかさず主導権を奪う。クッションが邪魔だった。シエルを寝かせて腰の下にあてがい、今朝自分が履かせたズボンを脱がせる。

「何故…今日はこんなに?」
「っ…、昨日、したかったのに、しなかった、から…」

 シエルはクッションをつかんで、ぎゅっと目を瞑った。意を決して誘ったものの、やはり、恥ずかしい。

「んっ…ああ…」
「給仕に来て、私がおやつを頂くことになるとは、ね」
「うるさ…んんっ…そ、そこばっかり…っ…」

 言いながら、勝手に動いてしまう腰を恨めしく思った。以前はセバスチャンに同じことをされても、身体を固くして、ただひたすら早く終わればいいと思っていた。嫌だったのではない。汚いはずの場所を好きな人に丁寧に舐められるのが、どうしても恥ずかしかった。

(今はこんな、明るいうちから…)

「お前が、いけないんだ…っ」

 セバスチャンの指が中に侵入する。反応を確かめるように、内側をなぞり、小さく出入りしながら、少しずつ進んでゆく。

「何がですか…?坊ちゃんが、自分から求めるようになるほど…快楽をお教えしたことがですか?」
「そんな…ふあっ」
「私は執事ですから、主人が気持ちよくなるために尽くさなければ…ね」

 後方で指を動かしながら、再びシエルを口に含む。視線に気がついたのは、そのときだった。






「あー…わかんねェなこりゃ」

 バルドは、自分の手で破壊してしまった厨房の後片付けをしていた。木っ端みじんに壊れたものは買い直さなくてはならないが、何があったか思い出せない。紙に大きな字で『鍋』と書いたきり、手が止まっていた。

「…セバスチャンに聞いてくるか。あいつなら全部覚えてるだろ」

 掛け直した時計に目をやる。この時間なら、坊ちゃんの部屋にいるだろう。






「んっ…んっ…はぁっ…そ…んなに…あっ」

 軍隊経験のせいか。いつもと違う耳慣れぬ音には、どんなに小さくても気がついてしまう。

 目的の部屋の数メートル手前で、バルドはふと足を止めた。




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