BLUE in the nest

□BLUE in the nest -34
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「ヒッヒ…くすぐったいよ、伯爵」

 ヴィンセントは顔を上げ、先程まで口付けていた肩を優しく撫でた。
 葬儀屋の店の二階。火の気のないこの部屋は肌寒い秋夜を迎えていたが、二人とも裸だった。

「すまない。起こしたかな」
「んん…、何か面白い話をしてくれるかい」

 アンダーテイカーは向きを変えてヴィンセントの腕にもぐり込んだ。厚い前髪に隠れたミルク色の小さな顔が幸せそうに笑っていた。

「そうだねえ…」

 ヴィンセントは困った顔で微笑み、アンダーテイカーの前髪を上げ、額に口付けた。
 いつも、情報を得る時には、芸のできる者を雇って外に待たせておくのである。自分で『報酬を払った』ことはない。

「くれなきゃ」

 薄い唇を黒い爪で押し止める。ヴィンセントは何とか切り抜けようと必死に考えを巡らせ、あることを思いついた。

「今度、喜劇に連れて行ってあげよう。君がいくら笑い転げても大丈夫なように、いい席をとるから、ね?」

 思いがけない提案に、目を輝かせて頷く。逞しい首に手を回し唇を重ねる。

 恋人の機嫌は、損ねなかったようである。ヴィンセントは安堵すると、アンダーテイカーの胸に優しく唇を当てた。

「…っ」

 左胸の突起をつまみ、舌を這わせる。

「…ヴィンセント…待って…そこ、ばっかり…」

 固く勃ち上がったそれは、赤く煌めいて快感の波に転がされていた。触れては離し、触れては離し、それを幾度か繰り返したのち、指で強く捻り上げる。身をよじって逃れようとするが、逃げ場はない。

「ああっ…や…あんっ…はぁっ…」

 アンダーテイカーのそれは触れられもしないまま、肩を震わせて白い液体を飛ばした。

「はぁっ…ヴィンセント…ごめんなさ…」
「これだけでイクなんて、淫乱だな」
「は…駄目…汚れる」
「何…?ココは触らなくていい…?」
「や…あっ」
「背中だけでも、そんなになるの…ねぇ?」

 悪戯っぽく背中や腕をなぞり、反応を楽しんだ後、再び固くなったそれを丁寧に舐める。先程吐き出されたものを綺麗に掬い、四つん這いにさせて後ろの門を解す。

「ヴィンセント…待っ…」
「大丈夫、もうこんなに濡れてる」
「…は…あっ…ヴィンセント…入って来る…ああっ」

 内部が馴染んで来たのを確かめ、腰を掴んで引き寄せた。突き上げる度に、アンダーテイカーの唇から歓喜の喘ぎが漏れた。





「そういえば、笑える話ではないけどね、ディーデリヒと見に行ったウィーン万博に火葬炉が出ていたよ。我が国でも作れないかと、工場主達が熱心に聞いているようだった」
「へえ…ついに英国国教会も、混雑を極めた墓地をなんとかする気になったのかい。ヒッヒ」
「うん、サー・ヘンリー・トンプソンが、女王付きの外科医なんだけれど、かなり本気で我が国に火葬の習慣を根付かせようとしているらしい。今度火葬協会設立のためのパーティーがあるんだ」
「火葬パーティーだね」

 二人は顔を見合わせて笑った。

「そうだ、君はその道の専門家なのだから、招待させよう」
「実演コーナーでも作る気?」
「ふふ、…人間の骨って、燃やしても大分残るんだろう。何万年も前の人骨が見付かっているぐらいだし」
「そうだねぇ、まあ、火力とか、生前の病気や栄養状態にもよるけれどね…」

 言いながらアンダーテイカーは、はっとして目を背けた。けだるい熱の残る身体に、急に痛みが走ったように思った。

「それなら、大丈夫かな。私の骨はきっと、君の細い指で拾って貰わないといけないから」
「…、何、言って」

 知っている。

 両手を重ね、自分を見下ろす優しい眼差しを、何も言えずに見返した。
 月の光が高貴な微笑みを照らしていた。目の下のホクロが哀しく、心に残った。





 十一月も終わりの雨は冷たく、擦り減った通りのあちこちに薄氷のような水溜まりを作っていた。風が吹く度に水溜まりの表面は震え、さざ波が灰色に光って景色を揺らした。
 あちこちに蜘蛛の巣のかかった重い扉を開けると、濡れた砂や馬の匂いは遠退き、代わりにちょうど焚かれていた香の煙が鼻腔を忍びやかにくすぐった。

「いらっしゃい…おや、伯爵。小生は今少しビックリしているよ」

 アンダーテイカーは踊るような手つきで香炉に蓋をし、湯を沸かし始めた。

「驚いても笑ってるんだから、君は」

 ヴィンセントは濡れたコートを脱ぐと、空いている棺に腰かけた。微笑んでいたが、疲れた顔をしていた。アンダーテイカーは何も言わずにコートをハンガーにかけ、棺の上に紅茶の入ったビーカーを置いた。




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