BLUE in the nest
□BLUE in the nest -36
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(泊まるおつもりでしょうか?)
それならそれで構わないが、そういう荷物でもないようだ。
客間に戻り、ソファの上でシエルを膝に抱き上げる。
「あっ…」
どちらからともなく唇を重ねる。ふと、脳裏を先ほどの歯ブラシがよぎった。
シエルをソファに押し倒し、小さな口の中を舌で丹念に舐め回した。リザ・デル・ジョコンド−モナ・リザのモデルと言われた−の肌のようになめらかで美味なビスキュイの味も、バターをたっぷり使ったクレーム・オ・ブールに混ぜたコーヒーのフレーバーもほとんどわからない。ただシエルのキスの味だけが懐かしい。
「んんっ…そんなに…やっ…」
シエルは顔を赤らめた。ズボンの中のものは軽く勃ちあがっていた。セバスチャンはたまらずにシエルのシャツのボタンを外した。
「ふぁっ」
「ふふ、女の子みたいですね…」
真っ白な胸に顔を埋める。
温かさの中で、生まれ変わりを待っていた百余年を思い出していた。退屈なこの国を逃れて海の上に黒い羽を翻した日。眼前に雪を冠した山が迫っていた。白が絶え間なく光を反射していた。赤い瞳に可視光線の均質な刺激が強く感ぜられた。フィヨルドの切り立った山のふもとを沈めた静謐な湖に思い切り飛び込んだ-冷たさに感覚が一瞬麻痺した-動いているのは心だけだった。その心で感じているのは過去の思い出だけだった。これが魂の想起なら、これからのシエルの体験と相似するだろうと思った。
フラクタル構造の海岸に山が隆起し、雪片が無尽蔵に積もったあの場所はひとつの無限を有していた。
この小さな胸も、こんなにもなめらかで華奢な胸も、どんな夜の帳が持つ襞より深い。雪と違うのはこの温かさ。…
(大鴉から人に姿を変え、岸まで泳いだ。冷たい水を含んだ黒いコートが雪に沈んだ。横たわって空を見上げた。孤独や焦燥は地獄に置いてきたのだ、そう思った…)
「シャワーを浴びましょうか」
「う…ん」
シエルはセバスチャンの首に腕を回し、熱っぽく頷いた。口の中にオペラよりも甘い余韻が残っていた。
「坊ちゃん、無理なさらなくてよいのですよ」
「…んむっ…無理じゃ、ない」
小さな口に入りきらないそれを一生懸命くわえる。シャワーの前にセバスチャンの下着姿を見たときから、そうしたかったのだ。