06/06の日記

23:27
【Diary連載】ふたセバ
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※ちょっとおちゃらけたシリーズです

※基本はセバシエです

※今後R18になります





「坊ちゃん、おはようございます」
「ああ。…?」
「お目覚めの紅茶にはマリアージュ・フレールのアールグレイ・インペリアルをお持ち致しました」
「お前…」
「ご朝食はベイクドトマト、スクランブルエッグ、コッツウォルズ産の…如何されましたか?」
「セバスチャン、その髪の色はどうしたんだ?それに何でシャツを着ていな…」

 ドアが開き、セバスチャンが入って来る。

「坊ちゃん…」
「…」
「…」

「セバスチャンが、二人!?!?!!!!!!!!」





「どういうことなのか、私にもわからないのです」

 シエルは朝食のクロワッサンを口に運びながら、目の前の二人を交互に眺めた。

 一人は、よく知っているセバスチャンである。

 もう一人もセバスチャンだが、髪は銀色だった。ズボンしか履いておらず見苦しいので、黒いベストを着せて手袋をはめさせている。裸にベストってインパクトが強いな、とシエルはやや落ち着いた頭で考えた。

「パンを焼くみたいに」

 とシエルは言った。

「悪魔も一度に同じのをたくさん創ったんじゃないのか?それがたまたま僕のところへ来たとか」
「それでは契約印の説明がつきません」

 黒いセバスチャンが言うと、銀色のセバスチャンは手袋を外して手の甲を見せた。

「お前、どこから来たのか覚えていないのか」
「わかりません。…私はもともと、このセバスチャンの中にいたような気がするのですが…」
「分裂か…」

 そんな調子でコイツに増えてもらっては困るな。そのうちゾンビみたいに屋敷中にセバスチャンがウロウロするようになったりして。

 ふと、シエルはフォークを置いて呟いた。

「今日は6月6日、悪魔の日だ」
「世間では、そのように言われているようですが…」
「こういう仮説はどうだ?悪魔の力が増幅して―満月の夜の狼男みたいに―それがもう一人のセバスチャンを生んだ」

 二人のセバスチャンは顔を見合わせた。その珍しく苛立った表情は、些か滑稽に見えた。

「悪魔のくせに、自分のこともわからないなんてな」
「申し訳ありません」
「だが、契約印がある以上、ここにいる権利はあるようだ…」

 シエルはナプキンで口を拭き、席を立った。二人は同時に食堂のドアを開けようとして縺れ合い、黒いセバスチャンがその争いを制した。銀色のセバスチャンはしおしおと食器の後片付けに回った。

「二人いれば仕事も二倍捗る…いいかもしれないな」

 シエルは渋い顔をしている黒いセバスチャンに言った。

「何か心配なことでもあるのか」
「ええ…いえ…」

 食堂から出て廊下を歩きながら、シエルは考えた。セバスチャンが二人いるなら、スイーツも二倍だ。案外煽られやすいところもあるから、二人を競わせれば毎日より素晴らしいティータイムを過ごすことができるかもしれない。…





「生き別れの弟です」

 だいぶベタな紹介だったが、バルド達はそれで納得した。

「仕事がないそうなので、しばらくお屋敷に置いていただけるよう、坊ちゃんにお願いしました」
「セバスチャンさんが二人だなんて…!トキメキも二倍ですだ…!」
「あっ、おいメイリン、しっかりしろ!」
「再会できてよかったですね!!セバスチャンさん!!」

 フィニは涙ぐんでハンカチを噛んでいる。

「で、弟のほうは、何て名前なんだ?」
「そのことなのですが」

 セバスチャンはふーっとため息をついて、銀色のセバスチャンのほうを眺めた。

「どうやら里親のところで全く同じ<セバスチャン>という名前をいただいたらしく…」
「やっぱりセバスチャンさんが二人ですだー!!」
「弟のほうは便宜上、ミカエリスと呼ぶことにします。まあ、良い名前を考えついたら改名も有り得るということで」
「はいはーい!〇〇〇ガインみたいな勇者系の名前はどうですか!」
「却下」

 セバスチャンはパンパンと手を叩いて、話を終わらせた。

「私はミカエリスがどれほど仕事ができるか監督しなければなりません。皆さん、いつも以上に問題を起こさないよう、気をつけて下さいね。何かあったら、お仕置きも二倍ですよ」





「ねぇ、ムカついた?アハハッ」

 髪を整え、部屋から出て行くクロードを見ながら、アロイスは壊れたオルゴールのように笑っていた。

 何度も何度も、留められるそばからボタンを外し、クロードのボタンもブチブチと外してやったのだ。

「フ…あは…」

 留め直された胸のボタンに触れる。彼の感触も匂いも、そこに残ってはいない。クロードの、匂い…思い出そうとして、アロイスはベッドの上で目を閉じた。

「ばかなクロード…愚直に何でも言うことを聞くんだから…」

 ノックの音がして、アロイスはハッとした。

「クロード?」

 考え直して、お仕置きをしに戻って来たのかもしれない。痛みが与える快楽を期待し、下腹部にじわりと熱がこもるのを感じた。

「入って。…」
「失礼致します」
「…!?」
「旦那様、どうぞお好きなだけボタンをお外し下さい」
「下さい」
「気色…悪い…!!!!!」

 なんとクロードは、もう一人クロードを連れていたのである。見目形はほとんど変わらなかった―髪が青いということを除いては。



<続きます…!>

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