09/06の日記

19:31
ふたセバ 4※R18シーン含
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 ドン、という、サラダの野菜を切るにしては大きすぎる包丁の音に、バルドは思わず身を縮めた。

 ミカエリスとシエルの接近に、腹を立てる必要はないのかもしれない。あれは、自分なのだから。だが、そう言い聞かせ、怒りを宥めるのは難しかった。

 あとで、隙を見てシエルの部屋に行こう。自分のものなのだと、ミカエリスにはっきり示さなくてはならない。

(だめなものは、だめなんです)

 子供じみた頑固さは、少し情けない。脳裏にちらつく光景を振り払おうとして、セバスチャンは一心に包丁を振るった。

「バルド、何ですかその卵は」
「何って、ベアネーズソース…」
「白身が混じってますよ。それはデザートに使いますから、別のを」
「へーい…」

 あくまで、執事。
 余裕を持ってそう言えたのは、シエルがそれ以上の存在として自分を見ているからである。
 こんな風に一日バルドやメイリンたちと過ごしていたのでは、普通の使用人と変わらない。いや、悪魔であるという点は違うのだが…。

(坊ちゃんは、平気なのでしょうか?)

 ミカエリスを自分の代わりだと思って、満足しているのだろうか。そう考えるとむらむらと黒い加虐心が湧いてきた。隙を見てシエルの元へ行こうという考えは消え、しばらく放っておくのもいいかもしれないと思った。

「ああ、タラゴンの葉はみじん切りにして下さい」
「こいつも一緒に煮ちまったら、駄目なのか?」
「香りが飛びますから」
「へぇ…しかし、お前がこんな風についててくれるのは、俺らには有り難ぇことかもな」

 スズキを捌く手を止め、怪訝な顔を向ける。

「いつも、フォローしているでしょう」
「そりゃそうだが…最優先は坊ちゃんだろ?」
「…当たり前です」

 また大きな音を立てて、包丁を振り下ろす。

「気付いたら坊ちゃんの部屋にいるもんな、お前」

 セバスチャンははっと紅い瞳を見開いた。

 そう、なのだろうか。

 使えない使用人が作り出す雑用に追われ、事件でもなければなかなか二人ではいられない。
 そう思っていたが、そうではないのかもしれない。

「…わかりませんね。貴方がたとは、時間の感覚が違いますので」
「あぁ?俺がオッサンだって言いてぇのかよ」
「使えないオッサンだと思ってます」
「悲しい修飾ついちゃった!」
「元兵士なら料理くらいはこなすかと思ったのですが、とんだ見込み違いでしたね」
「おっまえ…」

 本当は、料理の腕前などさほど期待してはいなかったのだが、わざと意地の悪い言葉を選んでそう言った。いくつものことが得意な人間など、なかなかいるものではないのは知っている。

「ほら、ビネガーが煮詰まってますよ、早く火から下ろして下さい」
「っとと」

 考えれば考えるほど、わからなくなりそうだった。シエルと一日共に過ごすために、ミカエリスが生まれたのか。それとも、シエルと自分をしばらく離すために、生まれたのだろうか…。ビネガーのつんとする匂いに、魚の生臭さ、ハーブの高い香りが混じり合って、気持ちの混乱に拍車をかけていた。





「ミカ…エリス」

 紅潮した頬は、温かいダージリンのためではない。

「お前、心の中も、セバスチャンと同じ…なのか?」
「さあ、違うかもしれません」

 シエルは顔を上げて、銀色の睫毛に覆われたミカエリスの瞳を見た。冷たいのか優しいのか、わからない瞳だ、と思った。

「セバスチャンより、貴方のことが好き…かもしれませんよ」
(セバスチャンより…?)

 そんなことが、あるのだろうか。

 セバスチャンが自分を心から好きだと、信じているわけではないものの、愛しているなら、その気持ちは誰より強いと思いたい。それを越えるなどということが、あるのだろうか?ミカエリスはセバスチャンの半身だから、可能なのか?…

「わからない、という表情ですね」

 ミカエリスは手袋の指先をくわえると、ゆっくりそれを外した。

「もっとわかりやすい‘言葉’で、ご説明しましょうか…?」







「C、僕にキスしたい?」

 アロイスはベッドに横になると、Cと名付けた青い髪の執事に手を伸ばした。

「イエス、ユアハイネス」
「ふふ…いい子だね」

 碧の瞳に仄かな光が宿る。悪いことを思い付いて、始めようとしているときの目だ。

「お座り、そこに。そして僕の服を脱がせて、どこへでも口付けて」

 跪いて眼鏡を外す。言われた通りに、アロイスの靴を脱がせ、靴下を押し下げる。細く伸びた脚を大事そうに持ち上げ、唇を当てる。

 その様子を見せられている者がいた。首輪を嵌められ、テーブルの足に繋がれたクロードである。

「フフ…くすぐったいよ」

 ズボンを脱がされ、大腿の間に口付けを落とされる。アロイスはCの髪にそっと手を伸ばした。

 何度、この瞬間を夢見ただろう。

 下着にかけられるCの手をそっとおさえ、アロイスはなるべく蠱惑的な声を作ってねだった。

「ねぇ、‘犬’が見てるんだ。これじゃ集中できないよ…」
「イエス、ユアハイネス」

 タッセルが外れ、ベッドの天蓋から垂れるドレープがさっと閉められる。
 その瞬間、アロイスは飛び起きてCの襟元を掴み、耳に唇を寄せて強い口調で囁いた。

「お前、それ以上触ったらぶっ殺すからな!キスしていいのは僕の腕と足だけだ。わかったら、僕とヤってるふりをしろ!」

 Cは驚いた―その驚きはクロードにも伝わっていた。が、アロイスはクロードに知られているとは思わず、下着を脱ぎ、演じ始めた。

「やだ…、そこ、見たら嫌だよ…」
「嫌、ですか?」
「だって僕の…お前のみたいに、立派じゃないもの」
「旦那様…こんなに大きくなっているではないですか」
「ん…っ…そんな…っ」

 膝の上に口付けを感じながら、アロイスは自分の手で、勃ち上がりかけた自分自身に触れた。



<続きます…!>

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