10/21の日記

23:28
ふたセバ 5※R18シーン含
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「まだ、…仕事が残ってる」

 シエルはそう言って、ミカエリスの誘惑を弱々しく拒絶した。

 ケーキの残りを口に運びながら、様子を窺う。ミカエリスが更に迫ってくるのではないかと身構えたが、銀色の微笑は意外にもあっさり引き下がった。

「失礼致しました」

 そう言ったきり、後は黙々と給仕をしている。

(…素直すぎるのも、考えものだな)

 少し冷めたダージリンが、胸の奥に仄かに苦い居場所を占めていた。



 慣れているはずなのに、落ち着かない。

「坊ちゃん、逃げないでいただけますか」
「…っ」
「隠すのも、なしです」

 諦めて、身体に巻き付けていた両腕を広げる。

「タオル、変えたのか?」
「同じですよ」

 ミカエリスは笑って、シエルにバーバリーのロゴを見せると、後ろを向かせた。

 いつも、身体を洗うのはセバスチャンの役目である。

 ミカエリスがセバスチャンから分裂した半身ならば、いつもと変わらないバスタイムのはずなのだが、シエルはすっかり緊張して、身体を固くしていた。

(何か…されるかもしれない…)

 それが不安なのか期待なのかは、よくわからない。

「…っ」

 臀部の下をタオルで拭われ、シエルは思わず口元を押さえた。感じてしまわないように、人差し指を噛んだ。

「何をしていらっしゃるのですか」

 ミカエリスはそっと、シエルの小さな手をとり、その傷口を舐めた。






 小ぶりのそれを人差し指でなぞり、軽く握ってやる。透明なものが溢れ、柔らかそうな先端が卑猥に光る。

「セバス…チャン…」

 期待に震える声で名前を呼び、細い腕を伸ばす。

 ミカエリスは結局、昨夜自分を優しく寝かしつけただけで、それ以上のことはしなかった。朝、シエルはミカエリスと交代したセバスチャンを堪えきれずに求め、セバスチャンもまた、アーリー・モーニング・ティーの給仕を後回しにしてそれに応えた。

(あいつ…思わせぶりなことだけ、言って…)
「セバスチャン、今日は…」

 言いにくそうに逸らした瞳が、睫毛の陰に濡れている。

「悪魔っぽく、…しろ」

 セバスチャンはそれを聞くと、優しく擦っていたものを離し、シエルの顔に自分の顔を寄せて冷笑を浮かべた。

「痛いのが、お望みですか?」
「違う…もっと、こう…お前らしさを感じる、ような…」

 さて、主人の命令を、どう遂行するべきか。

 セバスチャンはシエルの背中を抱くと、後ろからそっと胸に手を回した。滑らかな感触を楽しみながら、ふと思いついてシエルの耳に唇を寄せた。

「… …?」

 シエルはびくっと肩を震わせた。良い反応に満足し、セバスチャンは更に、深海の底で眠る白い貝を脅かす触手の生き物のように、シエルの耳元で何か英語ではない言葉を囁き続けた。

「や…っ…んっ…」

 ミカエリスではない、よく知っている筈のセバスチャンが、突然意思の疎通しないものに変化する。腕の力が、いつもより強いような気がした。







 中の見えないベッドでの出来事も、悪魔の目から逃れられているわけではない。

(愚かな…)

 Cに抱かれていると見せかけて自涜を行っているアロイスの嬌声に、しかし、知らず知らずの内に煽られてもいた。
 アロイスがそれを求めていることには、ずっと以前から気付いていた。ただ…。

「ああっ…やめて…そんな、もっと、優しく…」

 想像の中で、どんな自分に抱かれているのだろう。クロードはため息を吐いて、目を閉じた。こんなものを見せるために、もう一人の自分―Cが出現したのだろうか?



 翌日もアロイスはCを傍から離さず、屋敷の中を連れて歩いた。仕事は普段通りクロードに任せて、遊び相手はC、と決めてしまっていた。尤も、Cはアロイスの優しさだけを甘受しているのではなく、八つ当たりの対象にされることも多かった。

「勉強なんて、つまらない。こんなことして、一体何になるのさ」

 投げつけられた教科書を拾い、黙ってアロイスの机に戻す。

「外に出たい」
「…どちらへ?」
「ロンドンがいいな。人の多いところで、楽しく過ごそうよ」


<続きます…!>

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