忍たま乱太郎
□土井先生ときり丸
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一、新しい生活。
険しい山々や森林に囲まれ存在する、忍者の学校である忍術学園。
入学試験などなく、入学金を支払うだけで誰でも入学出来る。
この春、同じ時に入学して、すっかり仲良くなった三人組がいた。
土井先生の授業が終わり、いつも通りに食堂で昼食を取っていた時。
「ねえ。きり丸はドケチで小銭が大好きなのに、入学金を大量の小銭で支払ってたよね」
乱太郎がきり丸にそう言った。
「それがどうかしたのか?」
「お賽銭をあげる所か、逆にお賽銭箱を漁りそうなお前がだよ?夜な夜な小銭を数えるのが趣味なお前がだよ?よく小銭を手放す気になったな〜って」
「まあなぁ。ここは全寮制だし、雨風をしのげるし、仕方ないさ」
「あ、そっか。ゴハン買う為にお金は払ってたんだよね。授業料も自分で稼いでるもんね」
「まあ………ここに来るまで、米なんて買ったことねぇけどなぁ」
「そ…そうなんだ……。今まで何食べてたの…?」
「そりゃあ…お前、野草とかイナゴとかタダで手に入るモンばっかりさ。小銭使っちまったら貯めらんねぇじゃん」
「なるほど。変なこと言ってごめんね」
「別に気にはしねぇ
よ」
きり丸が小銭が落ちる音を聞けばすぐさま聞き分け、ダッシュで拾いに行くほどのドケチなのは周知。
なのに…と、乱太郎はふと不思議に思ったのだ。
「ねえねえ、ふたりとも。これからどうすんの〜?」
大盛りごはんの三杯目をおかわりした友達のしんべエが乱太郎ときり丸にそう訊いた。
今日は、午後の授業はない。
「オレは犬の散歩のアルバイト」
「わたしは今日習った所で分からないことがあるから、土井先生を訪ねようと思ってるんだ」
「そっかぁ。ボクは、おだんご屋さんに行って来る♪」
「しんべエったら、そんなに食べてるのに、おだんごも食べる気?」
「えへへ〜♪」
苦笑いを堪える乱太郎だが、大食漢もしんべエの良い所だと微笑ましくなったりもするが…。
きり丸は特に気には留めず、空になった椀を乗せた盆を持ち立ち上がる。
「ごっそさーん」
「きり丸。夕飯までには帰って来なよ?」
「わかってるー」
きり丸の姿がなくなると、乱太郎は箸を置いて手を合わせた。
「難しい勉強をして、そのあとバイトして……。きり丸は偉いよ」
「乱太郎〜?」
「ん、何でもない」
少し気にはなっていた。
授業終了時のことだ。
土井先生が言ったのだ。
『明後日から夏休みに入る。皆、怪我などに気を付けてご両親に元気な姿を見せるようにな』
『はーい』
一年は組の面々が返事をする中。
きり丸だけ返事をしなかった。
それから彼の口数が減ったような気がしたのだ。
(仕方ないよね。きり丸は…………)
乱太郎の家は由緒正しいヒラ忍者で、父親は忍者、母親もくの一の忍者。
忍者とバレてはならないので、普段は農業を営む半農半忍だ。
しんべエの家は、堺の貿易商の福富屋。
つまり、大金持ちなのだが……。
きり丸は、ふたりとは違う。
彼には帰る家も出迎えてくれる家族も身内も、知り合いもいない。
(きり丸は夏休み…どうするんだろう。学園に残るのかな……)
「乱太郎〜?どしたの?」
「ん…何でもない。それじゃあ、私も行くね。ごちそうさまでした」
土井先生の話を聞いて、辛いことを思い出したのかも知れない。
乱太郎は、きり丸のことも土井先生に相談しようと思った。