貰い物!
□遠い記憶
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いつの間にか、微かに吹いていた風も、戦場の張り詰めた空気も、先生の気配もなくなっていた。
そんな中、唯一聞こえてきたのは近付いてくる足音とその息遣いだけ。
「銀ちゃん!探したネ!」
見覚えのある狭い路地裏の入り口から神楽が叫んだ。
途端に走り出した彼女は、一瞬にして目の前にきた。
「もう!こんなところで何してたアルか!みんな心配してるネ」
「神楽…」
ふいに伸びた右手が神楽に触れたかと思うと、次の瞬間には神楽は俺の腕の中にいた
「銀、ちゃん?」
怖かったんだ
今、誰かのぬくもりに触れてないと本当に自分が消えてしまいそうな気がして
怖かったんだ
あの日を思い出してしまったことが
「銀ちゃん、泣けヨ。このままでいいから、私見てないから泣けヨ。」
「………。」
ありがとうな。
そう言ったつもりだが、声にはならなかった。
涙を流したのはいつぶりだろうか
俺はずっと泣かなかった
いや、泣けなかったんだ
涙なんてものはとっくの昔に枯れ果てていたから
あの日でさえ泣くことはなかった
「銀ちゃん、聞いてほしいネ」
「ん、何だ?」
「私、銀ちゃんが好きアル」
「ん…そうか。」
神楽を抱いたまま、顔も見ずに答えた。
そのまま何も考えずに、ただひたすら声を押し殺して泣いた。