貰い物!
□雨に歌えば 前編
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雨に歌えば」(前編)
その日は先日から吹き荒れていた春の嵐が止んでうす曇の中、うっすらと日の光が見えていた。
タママはお菓子の袋を握り締めケロロの住む日向家に向かった。美味しいお菓子を二人で食べたい、そのまま甘い語らいになったらいいなと下心も少々あるのだが。
ケロロは明るい日差しの下洗濯に勤しんでいた。玄関を横切りその風景を見ていたタママは頬を赤らめる。
風で運ばれた桜の花びらが庭に入り込みケロロと戯れているように舞っていた。幻想的で儚げですらある光景に魅入ってしまっていたのだ。
「軍曹さん…あそびましょ」
しかし庭に一歩近づくと身が凍るような気迫が包み込む。庭に張ったテントの前で銃の手入れをしているギロロの目がギラギラと光っていた。どこか喜んでいるような、それですら狂気を孕んでいた。
タママの気配に気づいたケロロはゆっくりと振り向いた。
影を背負い、黒い瞳が輝いていた。
その戦慄を感じるほどの残忍な眼差しにタママは握っていた菓子袋を落としてしまった。
震え上がるタママにケロロが近づく。
「軍曹さん…軍曹さんなんですか?」
「そうでありますよ。ほかの誰かに見えるとでも」
本能が危険の警鐘を鳴らす。手を伸ばされて怯えしゃがみ込むタママの頭の上でいつもの弾むような声がした。
「あ、お菓子でありますな。一緒に食べようか。タママ」
恐る恐る見上げるといつものケロロの顔が。脱力するタママを不思議そうに見るケロロがいた。
「軍曹…さん?軍曹さんなんですか?」
「ほかの誰かに見えるとでも?」
声のトーンが明らかに違う。ケロロの背中越しに見えるギロロも別段変わった様子がなかった。
あの空気は消え去っていて何も変わらない日常の風が流れていた。
(見間違えかな。よく考えたら軍曹さんも伍長さんもあんなの似合わないですぅ)
「僕の勘違いでした。遊びに来たんですぅ、あそびましょ」
「いいよ。一緒にガンプラ作るであります」
暖かな日差しの中、明るく笑うケロロに一抹の影さえもなかった。